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第三部
戦う者同士の阿吽の呼吸
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などと、猪人同士が勝手に勝負を始めてしまったりもしましたが、それには構わず、レギラとボゼルスの<角相撲>は続きます。
「ンギギ…!」
「ヌぐぐ……っ!」
頭と角を押し付け合い、こすれた角が出す「ゴリゴリッ!」という音を響かせながら、レギラとボゼルスはお互いに一歩も引く気配を見せませんでした。猪人に比べれば温和とも言える彼らですが、それでも、ほぼ野生と変わらない暮らしを続けてきただけあって、簡単には引きません。加えて、今度こそ決着を付けようという想いが双方にあるんでしょう。
私には理解できない感性ですが、否定するつもりもありません。今の私は<見届け人>。二人の勝負を見届ける義務があります。
そんな私の前で、二人は渾身の力を込めて押し合います。
これは、基本的に戦意を失った方が負けです。気を失ったりとかでも、『戦意を失った』のだから負け。という扱いになるそうです。だから、気を失うこともできない。しっかりと意識を保ったまま相手が音を上げるまで押し続けるんです。
そして今、二人の体には、当然、すさまじい力が満ちています。並の地球人では、いえ、トップアスリートや一流の格闘家でさえ、彼らと真っ向からやり合えば勝てないでしょうね。少佐や私でさえ、<力比べ>では兎人にさえ勝てるかどうか怪しいです。それを、軍人としての経験で補っているにすぎない。猪人と真っ向から渡り合える伍長がおかしいんです。
と、その時、レギラとボゼルスの二人が、どちらともなく頭を引いて、間合いを取りました。しかしそれは、『戦意を失った』のではありません。それどころか、二人の目には激しい闘志が漲っているのが分かります。ただ押し合っているだけでは埒が明かないので、お互いに頭を引いて再度相手にぶつけることを考えたのでしょう。
二人同時に。
『仲良しかっ!?』
私はそう思いますけど、これはまあ、<戦う者同士の阿吽の呼吸>なのかもしれません。この事例とは少し違いますが、私も、戦場でテロリストと対峙した時、何故か相手の動きが察せられたという出来事が何度もありました。相手がどう動こうとしているのかが察せられて、私は無意識のうちにそちらに狙いを変えて引き金を引いたんです。すると、吸い寄せられるようにしてテロリストが体を動かして、私が放った弾丸を受けて倒れたんです。
<偶然>だと言ってしまえばその通りなのでしょうが、その<偶然>の積み重ねで私が生き延びたのも事実ですから。
そうして引いた頭を二人は同時に相手に叩き付け、
「ガゴッッ!!」
という恐ろしい音が響いたのでした。
「ンギギ…!」
「ヌぐぐ……っ!」
頭と角を押し付け合い、こすれた角が出す「ゴリゴリッ!」という音を響かせながら、レギラとボゼルスはお互いに一歩も引く気配を見せませんでした。猪人に比べれば温和とも言える彼らですが、それでも、ほぼ野生と変わらない暮らしを続けてきただけあって、簡単には引きません。加えて、今度こそ決着を付けようという想いが双方にあるんでしょう。
私には理解できない感性ですが、否定するつもりもありません。今の私は<見届け人>。二人の勝負を見届ける義務があります。
そんな私の前で、二人は渾身の力を込めて押し合います。
これは、基本的に戦意を失った方が負けです。気を失ったりとかでも、『戦意を失った』のだから負け。という扱いになるそうです。だから、気を失うこともできない。しっかりと意識を保ったまま相手が音を上げるまで押し続けるんです。
そして今、二人の体には、当然、すさまじい力が満ちています。並の地球人では、いえ、トップアスリートや一流の格闘家でさえ、彼らと真っ向からやり合えば勝てないでしょうね。少佐や私でさえ、<力比べ>では兎人にさえ勝てるかどうか怪しいです。それを、軍人としての経験で補っているにすぎない。猪人と真っ向から渡り合える伍長がおかしいんです。
と、その時、レギラとボゼルスの二人が、どちらともなく頭を引いて、間合いを取りました。しかしそれは、『戦意を失った』のではありません。それどころか、二人の目には激しい闘志が漲っているのが分かります。ただ押し合っているだけでは埒が明かないので、お互いに頭を引いて再度相手にぶつけることを考えたのでしょう。
二人同時に。
『仲良しかっ!?』
私はそう思いますけど、これはまあ、<戦う者同士の阿吽の呼吸>なのかもしれません。この事例とは少し違いますが、私も、戦場でテロリストと対峙した時、何故か相手の動きが察せられたという出来事が何度もありました。相手がどう動こうとしているのかが察せられて、私は無意識のうちにそちらに狙いを変えて引き金を引いたんです。すると、吸い寄せられるようにしてテロリストが体を動かして、私が放った弾丸を受けて倒れたんです。
<偶然>だと言ってしまえばその通りなのでしょうが、その<偶然>の積み重ねで私が生き延びたのも事実ですから。
そうして引いた頭を二人は同時に相手に叩き付け、
「ガゴッッ!!」
という恐ろしい音が響いたのでした。
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