獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

ルール

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「確かに、おさの<許可状>ですね。では、私<ビアンカ・ラッセ>と見届け人として、<角相撲>を行うことを認めます!」

<料理対決>で決着がついてくれればよかったんですけど、レギラもボゼルスも揃って『自分が負けた』と思っていて、

『負けたのに、勝った側が手にするはずだったものを譲られるのは承諾できない』

とお互いに譲らず、結果としてこんなことになってしまいました。いやはや、まったく……

私の正直な気持ちとしてはそう思うものの、これも彼らの<感性>ですからね。蔑ろにするわけにはいきません。彼らの感性を<野蛮>と見下して<地球人のルール>を一方的に押し付けようとしていれば、今の信頼関係は築けなかったでしょう。

だから、『やれやれ』とは思いつつ、見届け人として、

「始め!」

号令を掛けました。

瞬間、睨み合っていたレギラとボゼルスの体が弾かれるように動き、互いの頭を「ガツン!」とぶつけ合いました。

「オ!? ケンカ、カ!?」

「ツノズモー、ダ!」

「イケ! ヤレェ!!」

などと口々に言いながら、祭りの準備を行っていた獣人達が集まってきます。この手の<勝負>は彼らにとっては<娯楽の一種>でもあるので、どうしてもこうなるんです。

と、

「オオッ!?」

「ヤルカ!?」

別のところからも怒声が。見ると、猪人ししじん同士が睨み合いを。

山羊人やぎじんの場合は、角相撲を行うにはおさおさが認めた見届け人・立会人が立ち会わないといけないんですが、猪人ししじんの場合は戦いこそが彼らの本懐であるからか、猪人ししじん同士で勝負をする限りは、一切、制限がありません。唯一のルールは、

『相手を殺さないこと』

かつては死ぬまで戦うこともあったそうですが、

「戦士を殺しちまったら、ゴヘノヘとかの脅威を迎え撃つ前に戦力が減るだろうが! 考えろ!」

少佐と私よりも二十年も先にこの地に現れて猪人ししじんと打ち解けていた伍長の提案により、『相手を殺さないこと』というルールが明確化されたそうです。それまでももちろん、すべての勝負において相手を死なせていたわけじゃないものの、『死ぬまでやる』こともあったのも事実。伍長は、

猪人ししじん同士の勝負はあくまで<鍛錬>の一環。戦って死ぬなら、<外敵>と戦って死ね』

という考え方にすり替えたんです。

正直、これは彼らの考え方に対する干渉ではあったものの、猪人ししじん自身が、

『なるほど。それもそうだ』

と納得してくれたことにより、強引に押し付ける形ではなく受け入れてもらえた事例ですね。

もしここで受け入れてもらえなければ、伍長も拘るつもりはなかったそうですが。

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