獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
213 / 404
第三部

実食

しおりを挟む
「オイシソウ♡ タベテイイ?」

自分の前に出された<真っ赤な野菜スープ>に、ラレアトが声を上げます。すると、

「イイゾ」

「サキに、タベろ」

レギラだけでなくボゼルスまでそう言いました。『双方の料理が揃ってから実食』という感覚がないからでしょうね。その辺も彼らがいいのであれば私が口出しすることじゃありません。

「ワーイ♡」

ラレアトが子供のように嬉しそうに木を加工して作られた匙を手にして、スープを掬い、「フーッ、フーッ」と息を吹きかけ冷まし、口へと運びました。

「ン! オイシイ~ッ♡」

途端に、ラレアトの感嘆の声。すると彼女は、続けて具だくさんのスープを掬い、モリモリと食べ始めたんです。

その姿がまた可愛らしくて、私も思わず頬が緩みます。

ただ、今回の野菜スープ(厳密には野菜として栽培されているものが材料じゃないので、<野草スープ>と称するのが正しいかもしれませんが)は、残念ながら私達地球人類では消化できない物が多く使われていたので、私は試食できませんが。

しかし、ラレアトの様子を見ていれば、彼女にとっては紛れもなく美味しいものだったんだと分かりますね。ただ、口の周りの毛に赤いスープがつくとまるで血のように見えるのがちょっとあれですが。

そうして一気に食べてしまった時、

「コッチも、デきた」

ボゼルスが声を上げて、トイラを包んだ葉の上を指でつまんで、皿に乗せました。そして、ラレアトの前に置いて葉を開くと、瞬間、ほわっと湯気が立ち上り、同時に、なんとも言えない香りが。

「え…?」

私も思わず声を上げてしまいました。トイラに火を通して食べるのは私達もしていましたが、私達が調理した時よりももっとずっと香りが強かったんです。だからつい、匂いをかぐような仕草をしてしまって。

「このハに、ツツんでヤクと、いいニオイが、する」

ボゼルスが説明してくれました。それは、私達がこれまで利用したことのない葉でした。ボゼルス自身が持ち込んだものだったんです。

「へえ!」

彼が独自に気付いたそれに、私も感心してしまいます。しかも、

「イイニオイ……」

苦手なトイラを出されて難しい表情をしていたラレアトまで、鼻を近付けてふんふんと匂いをかぎます。

さらに、香りだけじゃなく、葉に包まれた状態で蒸し焼きにされたトイラは、まるで鍋で煮たみたいに濡れていて、ゆらゆらと湯気の中で揺らめいていて、本当に美味しそうでした。加えて、見た目にも柔らかそうにトロけているので、別のものにさえ見えます。

「ウ~、チョットダケ……」

完全に彼女の知っているトイラとは違うものになったそれに、ラレアトも興味をそそられたのか、木の匙を近付けていったのでした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。 王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

女子中学生と核兵器廃絶に向けてスローライフをまったりと満喫♪

青村砂希
恋愛
主人公は大学の研究室で助手をしている28才の男性。 彼は研究室の教授から「私に何かあった時は娘を頼む」と言われました。 その後、教授は行方不明となり、そのお嬢さんは彼のもとへ嫁いで来てしまいました。 しかしその子はまだ中学生、さすがに同居する訳にはいきません。 透明感のある美少女が、いそいそと彼の部屋へ通い、身の回りの世話をしてくれます。 そんな中、彼はその子が特殊な教育を受けていた事を知ります。 そして、その子が父親から渡されていた研究論文と、彼の研究を組み合わせた時、世界の軍事バランスが根底から崩れる事に2人は気付きます。 この研究、世界80億人の生命を脅かす。外部に漏れてはいけない。 秘密を共有した2人は、新たな生活を密かに始めます。 しかし、謎の組織にマークされている事を、2人は知りません。 この2人、どうなっちゃうのでしょう。 サクサク読んで頂ける事を目指しました。 是非、お付き合い下さい。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ごめんなさい。俺の運命の恋人が超絶お怒りです。

しーぼっくす。
恋愛
救世主として異世界召喚された少女、里上愛那。 神託により【運命の恋人】の相手だという王太子に暴言を吐かれ、キレた愛那は透明人間となって逃亡する。 しかし愛那の運命の相手は別の人物だった。 カクヨムさんでも連載しています。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

赤ずきんは夜明けに笑う

森永らもね
ファンタジー
 多様な生物が共存する世界、ドラグシアは「異世界からやってきた人間がこの世界を滅ぼす」という予言を受け、異世界人を悪魔と呼び、迫害を徹底するようになった。  これはそんな世界で生きる悪魔の少女の終わらない復讐劇である――― ※挿絵は自作です(グロシーンも挿絵にあるので注意です)縦漫画風のものが多いので横読み推奨です。

処理中です...