獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

二人でちょっと料理を

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ラレアトとお話をしてたいのはやまやまですが、レギラとボゼルスのことも放っておくわけにはいかないので、険悪な空気のまま焦れている二人の様子に、私は、

「まあとにかく、二人でちょっと料理を作ってみてください。ラレアトが食べられるものを。ほら、こっちの屋台で。材料もありますから」

すでに準備されている屋台を指さして、そう声を掛けました。屋台そのものは誰かの所有物というわけじゃなく、祭のための<設備>なので、どの屋台を誰が使うかを決める形なんですよね。材料も、準備中に食事を提供するために用意したものがあります。

「エ…?」

「ん……」

二人とも、戸惑いながらも、渋々、食材を手に取って屋台に入りました。

ちなみに、<料理>と言っても、調味料自体が塩と甘みのある食材を調味料代わりに使うくらいのものなので、正直、そんなに複雑な料理はできません。直火で炙るか、土器の鍋で煮るかっていうくらいです。

すると、レギラは、屋台の竈でいこっていた埋火うすみびに細い木の枝をくべて火を熾し、ナヌヘを一掴み水と一緒に土器の鍋に放り込んで、煮始めました。なるほどナヌヘの甘みを活かしてということですね。

一方、ボゼルスは、トイラを二つ、大きな葉に包んで、やはり火を熾した竈の上に置いた平べったい石に並べて置きました。これは、<石焼き>ということでしょうか。

『へえ……』

彼らの<料理>で焼く場合は直火のそれしか見たことがなかったので、少し驚かされました。だから私は、

「ボゼルス、直接火で炙って焼かないの?」

ふと問い掛けてみました。すると彼は、

「ジカにヤいたら、クロくなるだけ。でも、こうしたらウマくなる」

って。

「もしかして自分で思い付いたの?」

「カマドのヨコにおいてたトイラ、ヤけてたから」

との説明。どうやら、竈で料理中に置きっぱなしにしてたトイラが遠赤外線で火が通った状態になったことがあったって話だと思いました。こうやって料理の技術が次々と発見されていったんだろうなというのを私は目の当たりにしたんです。

そう、正直、獣人達のそれは地球人の感覚からすればまだまだ<料理>と呼ぶのもおこがましいレベルのものだとは思います。でも、地球人だって最初から和食や中華やフレンチみたいなのを食べてたわけじゃないでしょう。精々、直火で炙った程度のものから始まって、いかに美味しく食べるかを追求することで進歩していったんでしょうし。それと同じことが起ころうとしてるに違いありません。

ただ、

「トイラァ~…?」

ナヌヘを使ったレギラの料理には興味を示していたラレアトが、トイラを蒸し焼き(大きな葉で包んでるので実質蒸し焼きになるでしょうね)し始めたボゼルスの方には、顔をしかめていたのでした。

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