208 / 404
第三部
レギラとボゼルス
しおりを挟む
「オレダ!」
「いいや、オレがここにミセを出す!」
<ゴヘノへ御輿>が設置されたところまでくると、そうやって言い合う男性の声がはっきりと聞こえました。
レギラとボゼルスでした。
二人は共に山羊人で、しかも料理の腕には自信があり、共に<店>に興味を持って屋台を出してくれることになっていたんです。
ここにはまだ、私達の<よろずや>以外には<店舗>と呼べるものはありませんが、ゴヘノへ御輿の建造中にも、働いている皆のために軽く食事ができるようにと屋台をいくつか設置していました。その中で山羊人向けの屋台を交代で受け持っていたのが、このレギラとボゼルスでした。
二人はお互いに全く譲る気がなく、<山羊人>と私達が仮称しているだけあって<山羊の角>によく似た角を持つ者同士で、今にもその角をぶつけ合おうとしているようにも見えました。実際、雌をめぐって角をぶつけ合って勝負することもあるそうです。
地球人の感覚からすると野蛮極まりない話ではあるものの、それも含めた彼らの<習性>であり<風習>なので、私も、
「分かりました。それでは、店を出す場所については、<角相撲>で決めてください。それでいいですね?」
<祭の総責任者>の一人として、裁定を下します。少佐と私の仕事の大半は、こういう、現場でのあれこれについて沙汰を下すというものでした。
なお、<角相撲>というのは、山羊人の雄同士が角をぶつけ合う行為にそれまで特に名前がなかったので、私達がそう名付けたものです。ただ、<角相撲>は、勝負がついた後で負けた側がその事実を認めず話を蒸し返してくるのを防ぐために、基本的には<長>が勝負を見届けることになっています。
しかし、この場に長は来ていなかったので、レギラとボゼルスもその場で<角相撲>を始めることができずにいたんです。とは言え、このまま放置していたら勝手に始めてしまい、共に、
<許可なく私闘を行った罪>
で、下手をすると群れを追われる可能性もありました。だから私は、
「メイミィ、長に<角相撲>を行う許可をもらってきて。見届け人は私、ビアンカ・ラッセで」
メイミィにそう告げました。
「分かった…!」
彼女はそう応えて、山羊人達の集落に向かって走り出します。妹のレミニィを伴って。
こういう時のために、長の代わりに私か少佐か伍長が<見届け人>になることを、山羊人達との間で取り決めていたんです。その辺りの交渉は、基本、少佐の役目でしたが。
「これでとにかく、長からの許可状を待つということで、それまで二人ともおとなしくしていてね」
私の言葉に、レギラとボゼルスは、
「ハ…ッ!」
「けっ!」
険悪ながらも、とりあえずは落ち着いてくれたのでした。
「いいや、オレがここにミセを出す!」
<ゴヘノへ御輿>が設置されたところまでくると、そうやって言い合う男性の声がはっきりと聞こえました。
レギラとボゼルスでした。
二人は共に山羊人で、しかも料理の腕には自信があり、共に<店>に興味を持って屋台を出してくれることになっていたんです。
ここにはまだ、私達の<よろずや>以外には<店舗>と呼べるものはありませんが、ゴヘノへ御輿の建造中にも、働いている皆のために軽く食事ができるようにと屋台をいくつか設置していました。その中で山羊人向けの屋台を交代で受け持っていたのが、このレギラとボゼルスでした。
二人はお互いに全く譲る気がなく、<山羊人>と私達が仮称しているだけあって<山羊の角>によく似た角を持つ者同士で、今にもその角をぶつけ合おうとしているようにも見えました。実際、雌をめぐって角をぶつけ合って勝負することもあるそうです。
地球人の感覚からすると野蛮極まりない話ではあるものの、それも含めた彼らの<習性>であり<風習>なので、私も、
「分かりました。それでは、店を出す場所については、<角相撲>で決めてください。それでいいですね?」
<祭の総責任者>の一人として、裁定を下します。少佐と私の仕事の大半は、こういう、現場でのあれこれについて沙汰を下すというものでした。
なお、<角相撲>というのは、山羊人の雄同士が角をぶつけ合う行為にそれまで特に名前がなかったので、私達がそう名付けたものです。ただ、<角相撲>は、勝負がついた後で負けた側がその事実を認めず話を蒸し返してくるのを防ぐために、基本的には<長>が勝負を見届けることになっています。
しかし、この場に長は来ていなかったので、レギラとボゼルスもその場で<角相撲>を始めることができずにいたんです。とは言え、このまま放置していたら勝手に始めてしまい、共に、
<許可なく私闘を行った罪>
で、下手をすると群れを追われる可能性もありました。だから私は、
「メイミィ、長に<角相撲>を行う許可をもらってきて。見届け人は私、ビアンカ・ラッセで」
メイミィにそう告げました。
「分かった…!」
彼女はそう応えて、山羊人達の集落に向かって走り出します。妹のレミニィを伴って。
こういう時のために、長の代わりに私か少佐か伍長が<見届け人>になることを、山羊人達との間で取り決めていたんです。その辺りの交渉は、基本、少佐の役目でしたが。
「これでとにかく、長からの許可状を待つということで、それまで二人ともおとなしくしていてね」
私の言葉に、レギラとボゼルスは、
「ハ…ッ!」
「けっ!」
険悪ながらも、とりあえずは落ち着いてくれたのでした。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる