獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

祭りに向けて

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<ゴヘノへ神輿>が完成し、いよいよ、祭の準備へと移ります。

もちろん、ここまでにも祭の準備は行ってきましたが、やはり<ゴヘノへ神輿>の建造の方に人的リソースが集中し、祭の準備の方は捗っていませんでした。

「オマツリオマツリ!」

<ゴヘノへ神輿>建造では連絡係をはじめとした雑務の多くをこなしてくれたラレアトが、嬉しそうに祭の準備も行ってくれます。

一見すると子供のような、いえ、実年齢そのものが十歳を過ぎたばかりというラレアトに重作業や危険な作業は任せられなかったですけど、兎人とじんとしては彼女はいわば十代後半くらいの感じなので、もう<成体おとな>と言ってもいい年齢なんですね。ただ、性格的にちょっとおとなしいというのもあって。

「ビアンカ、オマツリ、タノシイ?」

言葉は必ずしも流暢でなく、たどたどしい部分もありつつ、朗らかな彼女は知能も実は高く、優秀なスタッフでした。祭の準備においても、チームリーダー的な立場で働いてくれます。

一方、

「ビアンカ、店の場所だけど……」

ちょっと遠慮がちに話しかけてきたのは、レミニィを連れたメイミィでした。メイミィも同じく兎人とじんではあるものの厳密には違う種族です。言葉はメイミィの方がかなり流暢に話せるんですが、あまり押しが強いタイプではありません。

それでも事務的な能力は高いので、彼女も優秀なスタッフの一人です。

「どうしましたか?」

応える私に、彼女は、

「レギラとボゼルスが、同じ場所に店を出したいって言ってて……」

告げてきます。

「同じ場所に、ですか」

「うん。二人とも、神輿のすぐ前がいいって聞かなくて……」

「なるほど。そこは一番目立つ場所ですからね」

獣人達にはまだ<商売>という概念はありませんが、文化祭の出し物的な形で、それぞれ<店>を出すことになったんです。やはり<祭>と言えば出店の屋台が付き物ですし。貨幣制度どころか物々交換の習慣すらまだ十分に根付いていないここでは<売り上げ>を気にする必要もないものの、『目立つ』というのは魅力的に感じるのかもしれません。

そういう感覚がいずれ<商売人の嗅覚>として育っていくのでしょうか。

ですが今はそれどころではないですね。

「分かりました。私が二人と話をしましょう」

こうして私は、

「ごめんなさい。また後で」

ラレアトにお詫びしながらメイミィと一緒にレギラとボゼルスのところに向かいました。

「ム~……」

背中にラレアトの<不満>が突き刺さります。彼女も私と話しをしていたかったのでしょうね。

申し訳ないことです。

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