獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
207 / 404
第三部

祭りに向けて

しおりを挟む
<ゴヘノへ神輿>が完成し、いよいよ、祭の準備へと移ります。

もちろん、ここまでにも祭の準備は行ってきましたが、やはり<ゴヘノへ神輿>の建造の方に人的リソースが集中し、祭の準備の方は捗っていませんでした。

「オマツリオマツリ!」

<ゴヘノへ神輿>建造では連絡係をはじめとした雑務の多くをこなしてくれたラレアトが、嬉しそうに祭の準備も行ってくれます。

一見すると子供のような、いえ、実年齢そのものが十歳を過ぎたばかりというラレアトに重作業や危険な作業は任せられなかったですけど、兎人とじんとしては彼女はいわば十代後半くらいの感じなので、もう<成体おとな>と言ってもいい年齢なんですね。ただ、性格的にちょっとおとなしいというのもあって。

「ビアンカ、オマツリ、タノシイ?」

言葉は必ずしも流暢でなく、たどたどしい部分もありつつ、朗らかな彼女は知能も実は高く、優秀なスタッフでした。祭の準備においても、チームリーダー的な立場で働いてくれます。

一方、

「ビアンカ、店の場所だけど……」

ちょっと遠慮がちに話しかけてきたのは、レミニィを連れたメイミィでした。メイミィも同じく兎人とじんではあるものの厳密には違う種族です。言葉はメイミィの方がかなり流暢に話せるんですが、あまり押しが強いタイプではありません。

それでも事務的な能力は高いので、彼女も優秀なスタッフの一人です。

「どうしましたか?」

応える私に、彼女は、

「レギラとボゼルスが、同じ場所に店を出したいって言ってて……」

告げてきます。

「同じ場所に、ですか」

「うん。二人とも、神輿のすぐ前がいいって聞かなくて……」

「なるほど。そこは一番目立つ場所ですからね」

獣人達にはまだ<商売>という概念はありませんが、文化祭の出し物的な形で、それぞれ<店>を出すことになったんです。やはり<祭>と言えば出店の屋台が付き物ですし。貨幣制度どころか物々交換の習慣すらまだ十分に根付いていないここでは<売り上げ>を気にする必要もないものの、『目立つ』というのは魅力的に感じるのかもしれません。

そういう感覚がいずれ<商売人の嗅覚>として育っていくのでしょうか。

ですが今はそれどころではないですね。

「分かりました。私が二人と話をしましょう」

こうして私は、

「ごめんなさい。また後で」

ラレアトにお詫びしながらメイミィと一緒にレギラとボゼルスのところに向かいました。

「ム~……」

背中にラレアトの<不満>が突き刺さります。彼女も私と話しをしていたかったのでしょうね。

申し訳ないことです。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...