獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

ざまあみろ

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『私達もそろそろ別の人生を選びましょう』

母が父にそう持ちかけていましたから、たぶん、今では二人は離婚し、それぞれ別の人生を歩んでいるでしょうね。

それとも、娘が行方不明になったことで、

『<娘を案じる父親と母親>を演じる』

ために、今でも一緒にいるんでしょうか? だとしたら、マスコミの取材などには、

『娘が無事に帰ってくることを信じています。私達はいつまででも待っています』

とか何とか答えつつ、内心では、

『これじゃ離婚もできやしない! 本当に親不孝な娘だ!』

みたいに思っていたりするでしょうか?

もしそうなら、正直、

『ざまあみろ』

と思ってしまったりもしますね。

よくあるフィクションのように、

『昔は親を疎ましく思っていたけど、今は』

なんてことは実はそうそうないってことが分かります。

親と子というのは、そんな簡単なものじゃない。人間というのは、そんな単純なものじゃない。

でも、だからこそ、自分自身を省みることが重要なんだって実感します。自分が両親と同じことをしてないかどうかを知るためにも。

『子は親の鏡』

という言葉は、親に自省を促すためのものというだけじゃなく、子自身にも、

『気付かないうちに親と同じことをしているかもしれないのを努々忘れるな』

と言ってる気がしますね。

私もそれを心に刻まなければと思います。

少佐と結ばれて、子供ができたら、私と同じ思いはさせたくない。

ただ、同時に、そればかりを気にして、『両親とは違うことをするのが正しい』と思い込んでしまうのも危険でしょうね。何しろ、ある大物テロリストは、祖父母が総合政府の高官だったんですが、両親に、

祖父母あいつらは既得権益に巣食う害虫だ。お前はあいつらのようにはなるな』

と散々言い聞かされてきたことで、

『自分は<害虫>を駆除しているだけだ!!』

などと公言して憚らない人物に育ったそうです。そのテロリストの両親は、祖父母のどういうところに問題があったのか、それを改めるためには具体的に自分はどう心掛ければいいのかをまったく教えてはくれなかったとのこと。

なるほどそれでは、何をどう改めるべきかも分からない。

ただただ、

『祖父母を貶めるような行いをすればいい』

と考えてしまうかもしれない。いえ、実際にそのテロリストはそう考えていたそうです。

『祖父母が苦しむことこそが正義』

なのだと。

これでは誰も幸せになんかなれません。

そのテロリストは、逮捕され、懲役千五百年の判決(恩赦によって多少減刑されても決して出てこれないように。終身刑は恩赦によって有期刑に減刑される場合があるので)を受けて服役中だそうです。

AIとロボットによる厳重な監視の下で。

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