獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

子は親の鏡

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「おはよう。さきにいく」

翌朝、目を覚ましたクレアがそう言って店を出ていきました。<ゴヘノへ御輿>の建造現場で酔い潰れて寝てしまった伍長のところに行くためです。

彼女も、かなり普通にしゃべれるようになってきました。それでも、知能そのものは十歳をようやく超えたくらいでしょうか。彼女の基になったであろう<クラレス>の記憶が戻る様子もない。

ですが、クラレスには精神的に脆い部分がありましたので、記憶など戻らなくてもいいでしょう。だって、彼女は<クレア>なのですから。クレアとして生きていけばそれでいい。伍長も、クレアを大切にしてくれています。彼は、自分と同等以上の力を持つ相手にはいちいち食って掛かる悪癖がありますが、自分より明らかに非力な相手にはそんなこともしないですし。

だからそういう意味ではわきまえているんですよね。彼も。



「オハヨウゴザイマス」

私と少佐が出発の準備をしているところに、トームがレータを抱いて<出勤>してきました。開店休業に等しいとはいえ、ごくまれに商品を求めて訪れるお客がいるので、一応、対応もします。日中はトームが担当です。なお、レータも順調に育ち、自分で歩けるようにもなり、いよいよやんちゃ盛りに突入しようとしています。

ただ、<背面ずり這い>で部屋の中を縦横無尽に進撃してたレータですからさぞかし暴れるだろうと思っていましたが、確かに庭を走り回ったりと活発なのは確かですが、想定していたほどは無茶苦茶なことはしないようです。

それこそ、<よろずや>の中でも走り回って店をメチャクチャにするかもと覚悟していたのに、商品を勝手に食べたりしてしまう程度で、建物の中にいる限りは案外おとなしくしてくれているんです。

これは、ハイハイをしていた頃に、敢えてうるさく言わず、疲れるまで本人の好きなようにさせていたのが功を奏したのかもしれません。変に抑圧されていないから、敢えて反発する必要もないと。

それが事実かどうかは分かりませんけど、店をメチャクチャにされない分には助かります。

また、トームが粗暴なタイプじゃないことで、攻撃的にレータに接しないということもあるかもですね。<躾>と称して攻撃的に子供に接すると、子供もその<攻撃的な部分>を見倣ってしまって攻撃的になる傾向があることが分かっています。

親はついつい、

『甘やかすとつけあがる』

と考えてしまって高圧的に攻撃的に子供と接してしまうことがあるけれど、実は、それ自体が<粗暴な子供を作る原因>なのだとか。

『子は親の鏡』

とは、まさにこのことなのかもしれません。

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