獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

<恐怖>を知らない者に

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この種の<戦略>は、フィクションのように一朝一夕で成立するものではありません。彼我の戦力差を詳細に検討し、相手の戦術を予測し、こちらが取りうる戦術を徹底性に検証し、その上で、地理や気象といった様々な条件を徹底的に調べ上げたことでようやく構築の準備に入れるんです。

その場の思い付きでできるようなことではありません。

しかし残念ながら現状では、戦略を立てられるような状況にさえないのが現実。今は<戦略を立てられるようにするための前段階>でしかない感じですね。

ですが、焦っても仕方ありません。焦って準備も不十分なままで攻勢に出るのはただの<運任せ>というものでしょう。蛮勇以外の何物でもない。

<勇気>と<無謀>を履き違えた英雄的行為で犠牲を出すのは犯罪的ですらある。

<命を戦場に送り出す者>は、それをわきまえないといけないんです。

『ムカつく相手は殺せばいい』

で戦争を仕掛けるような者はそれこそ<世界の敵>でさえあると言えるでしょう。無駄な血を流させ命を喪わせるのですから。

私達は、<ゴヘノヘという存在>をよく知らなければならない。必要以上に恐れず、かつ侮らず。そのためにも、ゴヘノヘ御輿を用いたシミュレーションを繰り返し、経験を積み、問題点を客観的に洗い出し、精度を上げていく。

そうしてようやく、次の段階へと移れる。

地球人も、途方もない時間を費やし、あまりにも大きすぎる犠牲を出しながら、それを学んできた。せっかくそういう先例があるのですから、活かさない手はない。

「これを実際に使って、<対ゴヘノヘ用決戦兵器>とぶつけると、大変な迫力になるでしょうね。

そしてラレアトも知ってください。<ゴヘノヘの恐ろしさ>を、<恐怖>を知らない者に勝利はありません。ゴヘノヘが脅威なのは、ゴヘノヘ自身が<恐怖を知る者>だからです。恐怖を知らず無謀なだけなら、<落とし穴>の時点で決着がついていました。しかしゴヘノヘは、<未知の脅威に対する恐怖>を知るからこそ、落とし穴の存在を察し、的確にそれを躱してみせた。私はその事実に対して敬意さえ払わずにいられません」

私のその言葉は今のラレアトには難しくてよく分からなかったようです。実は彼女ももう成体おとなと言ってもいいんですが、私から見るとまだまだあどけない感じですから。

「ウ~ン……?」

首を傾げながら腕を組みます。そんな様子も愛らしい。

「うふふ♡」

私は思わず笑みがこぼれてしまいます。

本音を言えば、彼女のようなあどけない者が<戦い>などというものを意識せずに済めばそれが理想ではあります。ですが残念ながら現時点ではそれは望むべくもない。ゴヘノヘは紛れもなく現実に存在する脅威であり、それから目を背けるのは自ら死を選ぶのと同義なのですから。

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