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第二部
スワンプマンとクローン
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私は、惑星探査チーム<コーネリアス>に所属する<ビアンカ・ラッセ>の記憶も人格も備えています。
けれど、私は、きっと、<ビアンカ・ラッセ>ではない。
<ビアンカ・ラッセの記憶と人格を備えた別人>
なんです。
少なくとも、地球人の社会では、法律上、そう解釈される。
<記憶と人格を移植されたクローン>
と同じ扱いになるでしょう。それどころか、<透明な体>という、決定的な違いから、クローンとさえ見られないかもしれない。
それは、まぎれもない事実。
ですが、<法律的な解釈>はそうだとしても、<私>は、確かに今、ここにいる。ここにいて、生きている。その事実は変わりません。だとすれば、私は私として生きるだけです。
『お前は誰だ?』
と問われれば、私はためうことなく応えます。
「私は私です。他の何者でもない」
と。
地球人の社会で私の身分を証明するデータは存在しなくても、私は実際にこうしてここに存在し、生きているんです。
<スワンプマン>
そう呼ばれるものが、今なお議論が続けられています。
むしろ、クローンへの人格や記憶の移植が可能になったからこそ、盛んに議論されているものです。
その議論に対し、地球人類は、あくまで法律上の概念としてですが、一つの結論を提示しています。
『いかにオリジナルと同じ肉体を有し同じ人格を有し同じ記憶を持とうとも、クローンとオリジナルは別の存在である』
というものです。
これは、クローンを貶めるためのものではありません。むしろ逆です。保護するために必要な解釈だったんです。
なぜなら、クローンとオリジナルを<完全に同一のもの>として見做すなら、オリジナルが犯した罪に対する責任をクローンも負わなければいけなくなるからです。
クローン自身は、クローンとして生まれてくることを望んでいたわけではありません。なぜならば、クローンはそれだけではオリジナルと同じ人格も記憶も備えていないからです。技術的にそれらを<インストール>という形で移植しなければ、オリジナルと同一の人格も記憶も持ちえないことが分かっているからです。
ゆえに、思考実験としての<スワンプマン>とは厳密には別の存在だと言えるでしょう。スワンプマンはあくまで誕生したその瞬間からオリジナルと全く同一の存在であるとされているからです。
しかし、現実問題として<完全なスワンプマン>の存在はこれまで確認されていませんので、
<人格と記憶が移植されたクローンが最も近似な例>
として議論の対象にされるだけですね。
そして、
『オリジナルが犯した罪をクローンに問わない』
ために、
『オリジナルとクローンは別の存在である』
とされているんです。
現在、クローンを作ること自体が、<終身刑もありうる重大な犯罪>とされているからですね。
けれど、私は、きっと、<ビアンカ・ラッセ>ではない。
<ビアンカ・ラッセの記憶と人格を備えた別人>
なんです。
少なくとも、地球人の社会では、法律上、そう解釈される。
<記憶と人格を移植されたクローン>
と同じ扱いになるでしょう。それどころか、<透明な体>という、決定的な違いから、クローンとさえ見られないかもしれない。
それは、まぎれもない事実。
ですが、<法律的な解釈>はそうだとしても、<私>は、確かに今、ここにいる。ここにいて、生きている。その事実は変わりません。だとすれば、私は私として生きるだけです。
『お前は誰だ?』
と問われれば、私はためうことなく応えます。
「私は私です。他の何者でもない」
と。
地球人の社会で私の身分を証明するデータは存在しなくても、私は実際にこうしてここに存在し、生きているんです。
<スワンプマン>
そう呼ばれるものが、今なお議論が続けられています。
むしろ、クローンへの人格や記憶の移植が可能になったからこそ、盛んに議論されているものです。
その議論に対し、地球人類は、あくまで法律上の概念としてですが、一つの結論を提示しています。
『いかにオリジナルと同じ肉体を有し同じ人格を有し同じ記憶を持とうとも、クローンとオリジナルは別の存在である』
というものです。
これは、クローンを貶めるためのものではありません。むしろ逆です。保護するために必要な解釈だったんです。
なぜなら、クローンとオリジナルを<完全に同一のもの>として見做すなら、オリジナルが犯した罪に対する責任をクローンも負わなければいけなくなるからです。
クローン自身は、クローンとして生まれてくることを望んでいたわけではありません。なぜならば、クローンはそれだけではオリジナルと同じ人格も記憶も備えていないからです。技術的にそれらを<インストール>という形で移植しなければ、オリジナルと同一の人格も記憶も持ちえないことが分かっているからです。
ゆえに、思考実験としての<スワンプマン>とは厳密には別の存在だと言えるでしょう。スワンプマンはあくまで誕生したその瞬間からオリジナルと全く同一の存在であるとされているからです。
しかし、現実問題として<完全なスワンプマン>の存在はこれまで確認されていませんので、
<人格と記憶が移植されたクローンが最も近似な例>
として議論の対象にされるだけですね。
そして、
『オリジナルが犯した罪をクローンに問わない』
ために、
『オリジナルとクローンは別の存在である』
とされているんです。
現在、クローンを作ること自体が、<終身刑もありうる重大な犯罪>とされているからですね。
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