獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

一度は通る道かも

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私がここまで長々と語ったことについては、ここに<社会>が築かれていく上においてはおそらく間違いなく直面する問題でしょう。

『理由があれば人を殺していい』

という概念も、感情を持つ知的生命体であれば一度は通る道かもしれません。

だから、獣人達がもし、<死刑制度>を設けることがあったとしても、それを廃止できた私達地球人の社会的な背景とは事情が大きく異なるのですから、大上段に構えて、

『死刑は野蛮な刑罰だから赦されない!!』

みたいに言ったところで意味がないことも分かっています。

何しろ、今の地球人の社会では、AIによる監視網が犯罪の多くを未然に防ぎ、ロボットが身を挺して庇ってくれることにより、実際に殺人に至ることが非常に少ないのですから。

また、終身刑などに処された加害者の管理についても、受刑者自身が刑務所内で働いて自らの生活に掛かる費用を捻出。加えて、刑務所の管理についてもロボットを活用することでコストを大幅に軽減できていますし。

ですがここでは、それらは望むべくもない。受刑者の更生を図るために割けるリソースがそもそも十分ではないのですから、地球人の社会とは同じようにできないのです。

『死刑は野蛮な刑罰だから赦されない!!』的なイデオロギーは、それこそ<絵に描いた餅>でしかない。

私達は当然、それも承知しています。

けれど同時に、いつかは達成することが大きな<利>になることも知っています。

『どんな理由があっても殺されない』

のですから、

『殺してやる!!』

と誰かに言われてもそれは絶対に認められないのですから。

『誰かに『殺してやる!!』と言われるような理由を作る方が悪い』

と言う人もいるでしょう。でも、それが、

『ただ幸せそうだったから』

とか、

『自分の好きな人と付き合ってるから』

とか、

『自分がこんなに愛しているのに振り向いてくれないから』

とかいう理由でも、『誰かに『殺してやる!!』と言われるような理由を作る方が悪い』のですか?

『理由さえあれば人を殺してもいい』

などという理屈で己の行為を正当化しようとする人間が、<その理由の正当性>なんて考えると本気で思うのですか?

実際にそうじゃないからこそ、<殺人>は起こるのではないですか?

AIやロボットは、

<殺害の理由の正当性>

なんて考慮しません。

だからこそ、AIもロボットも人間を害そうとはしないんです。

『理由さえあれば人を殺してもいい』

その考えを否定するのは、AIやロボットを発展させるには絶対に必要なことでしょうね。でなければ、AIやロボットにとって人間は、

<生かしておく理由がない危険で愚かな生き物>

と判断されかねないですから。

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