獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

フィクションの<ヒーロー>のように

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『人間は愚かなだけの生き物だ!!』

そう考えてしまいそうになる私を留めてくださったのは、少佐でした。少佐がいてくださったからこそ、私は人間に絶望せずに済んだ。愚かにしか見えない人がいたとしても、同時に、少佐のような方がいらっしゃるのが<人間>というものです。

だから、誰かが個人的な印象で人間に絶望したとしても、

『人間など滅べばいい!!』

などと勝手に結論を出すことは許されない。それが許されないからこそ、今も人間は生き延びている。

過去に何度も、それを訴えてテロを行った者達もいたそうですが、すべて頓挫したのは、<滅び>が人間の運命ではないからでしょう。いずれ種としての限界を迎えることがあるとしても、少なくとも人間同士で殺し合うことで滅ぶのは違う。

先にも述べましたが、<社会>というのは、全体が同じ考えを持ち、一つの目的に向かって突き進むものではないのです。様々な意見や価値観を持った者達が寄り集まり、それぞれ折り合いをつけることで構築されるのが<社会>なのです。

どんな意見や価値観を持っていようとも、それだけを理由に排除されるわけじゃない。

中には、

『自分こそが正しいから排除できないんだ!!』

的な考え方をする人もいますが、確かに、

『ある条件下である見方をすればその意見や価値観にも一理ある』

のでしょう。だから排除できなかった。

でもそれは、

<その人にとっては受け入れ難い意見や価値観を持った誰か>

についても同じ。どれほど不快で認め難いそれであっても、『ある条件下である見方をすればその意見や価値観にも一理ある』からこそ排除できないんです。

ゆえに、

『人間など滅べばいい!!』

と考える者が人間そのものを排除することも、当然、認められない。

そういう者達がどれほど自身の正当性を訴えようともそれが通らないからこそ、誰もが社会で生きることを許されるんです。

今、私達軍人は、敵対した相手の命を奪うこともあるがゆえに、徹底してそれを理解することを求められます。

自身の勝手な判断で誰かの命を奪うことがないように。

<殺してやりたい相手がいるから引き金を引く者>

は、結局、自分の勝手な判断で銃口を向ける相手を決める。

フィクションの<ヒーロー>のように、

『自身の力を向ける相手を絶対に間違わない』

なんて人間は、現実にはまず存在しないし、そういう者だけを集めようとすれば、軍隊など成立しません。

『時には間違いも犯すとしても、意図的に誰かを殺めようとはしない』

この条件でもかなり厳しいでしょうが、少なくとも『自身の力を向ける相手を絶対に間違わない』などという、現実ではほとんど存在しない人材を求めるよりはまだマシなのでしょう。

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