獣人のよろずやさん

第二部

自分こそが正義だ

それは、メイトギアのような＜人型のロボット＞がまだ＜アンドロイド＞と称されていた頃の話です。

当時はまだ、人間大のロボットに搭載できるサイズのAIでは十分な性能が確保できなかったために、ネットワークに常時接続し、大規模なサーバーによって一括管理するという方式が一般的だったそうです。

しかし、アンドロイド達を制御するサーバーが何者かのハッキングを受け、ハッカーの悪意に従って次々に人が殺されるという事件があった。

この事件、当初はアンドロイドを乗っ取ることで実行された＜無差別テロ＞と見做されていましたが、その後の捜査により被害者にある＜共通点＞が見付かったことで、

＜個人的な復讐＞

であることが判明したんです。

加害者は、＜天才ハッカー＞を自称する学生でした。そしてその加害者の肉親が、自殺を遂げていた。そして、アンドロイドによる殺人の犠牲者の多くが、その自殺を遂げた人物への加害行為に加担していた。

ネット上で集団でその人物に誹謗中傷や罵詈雑言を浴びせ、自殺に追い込むという加害行為です。

ただし、実際に殺害された人達の中には、その行為には直接加担していなかった人もいた。被害者の親族が加担していたという形で、実際に加害行為に加わっていた人物の身代わりで殺されたのです。

これは、どちらも、

『理由があるから攻撃した』

『理由があるから殺害した』

という、典型例だった。

アンドロイドをハッキングして復讐を実行した加害者は、

『命は、命でもって贖われるのが正義だ！！』

と訴え、しかも、些細な理由で人一人を自殺にまで追い込んだ者達は、

『叩かれる原因を作った方が悪い！！』

と訴え、『自分達は被害者だ』と、異口同音に口にしたといいます。

本当に業が深い。

どちらも、

『自分こそが正義だ』

と考えているんですから。

しかも世間は、ネットで一人を自殺に追い込んだ側も、アンドロイドを乗っ取って復讐を果たそうとした側も、

『どっちも死ね！』

などと罵ったそうです。

ですが、＜自殺に追い込んだ側＞は、判明しているだけでも三千人以上が加担したのです。

『命は、命でもって贖われるべき』であれば、その三千人以上が死刑となるべきでしょう。実際、アンドロイドを操って復讐を実行した加害者は、その三千人以上全員の死を望んでいたと。

十六人が亡くなった時点で、さらに、命は取り留めたもののアンドロイドに襲われて負傷した人が百人を超えた時点で、サーバーごとアンドロイド達が凍結されたことでそれ以上の犠牲者は出なかったそうですが。

この事件、本当に＜被害者＞と言えるのは、親族の行為の巻き添えになった方だけだったのでしょうね。