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第二部
優位が揺るがなかった
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なお、戦争の放棄が成された後、<死刑制度>も全面的に撤廃されました。
『大儀の下に人を殺す』
ことが禁止されたことで、ようやく、実現されたとのこと。
なお、死刑制度については、長らく、
『加害者にも基本的な人権はある。ゆえに死刑はその基本的人権を蔑ろにしている』
という論旨で議論されてきたそうですが、しかしその論調では、当然のこととして、
『被害者の基本的人権を蔑ろにした加害者の人権が守られるのはおかしい!!』
という反発を招き、死刑賛成派の優位が揺るがなかったと。
無理もありません。私だってそんなことを言われて素直に『そうですね』とは思えませんから。
ですが、あくまで冷静になって<犯罪としての殺人>について考えてみると、それは結局、
<加害者による身勝手な私刑による死刑執行>
という側面が強いことが分かるのです。
私自身、軍人として戦闘でテロリストの命を奪ったことは何度もあります。ですがこれは決して、<死刑執行>ではないのです。<刑罰としての死刑>はすでに廃止されているのですから。
私達軍人がテロリストを撃つのも、あくまで、
<緊急避難としての最低限の実力行使>
であり、その際に、
『結果としてテロリストが死亡してしまった』
のは、
『不可抗力である』
と見做されているからこそ免責されるだけなのです。ここで私達が明らかな殺意を持ってテロリストを殺害したとなれば、<重大な軍規違反>として裁かれることになっています。
そして実際、数年に一回程度の割合ではありますが、<重大な軍規違反>を疑われて訴えられる者が出ます。残念ながら。
殺人が、
<加害者による身勝手な私刑による死刑執行>
であるなら、たとえ軍人であっても、
<明確な殺意を持って意図的に殺害する行為>
については<殺人>となるのです。今では。
<刑罰としての死刑>が禁止されるに至ったのも、結局は、
『理由さえあれば人を殺していい』
という発想を根底から否定するためなのです。殺人者が自らの行為を正当化するために使われるそれを、決して認めないために。
統治機構側が、
『理由があるから殺す』
を行っていては、『理由さえあれば人を殺していい』という考えを根底から否定はできないですから。
それを否定すればこそ、
『殺人は許されない』
『たとえ理由があっても人を殺すのは認められない』
と、明確に断罪できる根拠を得られたのです。
ひいては、
『いかなる理由があろうともテロ行為は正当化されない』
という、イデオロギーや利害の対立に関係なくあらゆる立場からの総意を成立させることに成功したのです。
何しろそれ以前には、テロは、
『弱者による、理不尽な強者の圧政への抵抗である』
として、一部の国や勢力から支持を受けさえしていたのですから。
つまり、テロ行為というもの自体を、あらゆる方向から完全に否定するために、『たとえ理由があっても人を殺すのは認められない』という考え方が求められたということですね。
『大儀の下に人を殺す』
ことが禁止されたことで、ようやく、実現されたとのこと。
なお、死刑制度については、長らく、
『加害者にも基本的な人権はある。ゆえに死刑はその基本的人権を蔑ろにしている』
という論旨で議論されてきたそうですが、しかしその論調では、当然のこととして、
『被害者の基本的人権を蔑ろにした加害者の人権が守られるのはおかしい!!』
という反発を招き、死刑賛成派の優位が揺るがなかったと。
無理もありません。私だってそんなことを言われて素直に『そうですね』とは思えませんから。
ですが、あくまで冷静になって<犯罪としての殺人>について考えてみると、それは結局、
<加害者による身勝手な私刑による死刑執行>
という側面が強いことが分かるのです。
私自身、軍人として戦闘でテロリストの命を奪ったことは何度もあります。ですがこれは決して、<死刑執行>ではないのです。<刑罰としての死刑>はすでに廃止されているのですから。
私達軍人がテロリストを撃つのも、あくまで、
<緊急避難としての最低限の実力行使>
であり、その際に、
『結果としてテロリストが死亡してしまった』
のは、
『不可抗力である』
と見做されているからこそ免責されるだけなのです。ここで私達が明らかな殺意を持ってテロリストを殺害したとなれば、<重大な軍規違反>として裁かれることになっています。
そして実際、数年に一回程度の割合ではありますが、<重大な軍規違反>を疑われて訴えられる者が出ます。残念ながら。
殺人が、
<加害者による身勝手な私刑による死刑執行>
であるなら、たとえ軍人であっても、
<明確な殺意を持って意図的に殺害する行為>
については<殺人>となるのです。今では。
<刑罰としての死刑>が禁止されるに至ったのも、結局は、
『理由さえあれば人を殺していい』
という発想を根底から否定するためなのです。殺人者が自らの行為を正当化するために使われるそれを、決して認めないために。
統治機構側が、
『理由があるから殺す』
を行っていては、『理由さえあれば人を殺していい』という考えを根底から否定はできないですから。
それを否定すればこそ、
『殺人は許されない』
『たとえ理由があっても人を殺すのは認められない』
と、明確に断罪できる根拠を得られたのです。
ひいては、
『いかなる理由があろうともテロ行為は正当化されない』
という、イデオロギーや利害の対立に関係なくあらゆる立場からの総意を成立させることに成功したのです。
何しろそれ以前には、テロは、
『弱者による、理不尽な強者の圧政への抵抗である』
として、一部の国や勢力から支持を受けさえしていたのですから。
つまり、テロ行為というもの自体を、あらゆる方向から完全に否定するために、『たとえ理由があっても人を殺すのは認められない』という考え方が求められたということですね。
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