獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
160 / 404
第二部

爆弾そのものを抱えているのと

しおりを挟む
私達は軍人であるからこそ、さらに加えて、<惑星探査チームのメンバー>であるからこそ、人間関係というものを重視します。

なにしろ人間関係が良好でなければ、作戦遂行にも支障が出るからです。

また、惑星探査船という限られた空間内で長期間の共同生活を行うという点においても、人間関係において軋轢を抱えているというのは、爆弾そのものを抱えているのと変わりません。

ゆえに、選抜の際にはそういう部分の適性が重視されるのです。

その点で言うと、伍長が選出されたのはいささか疑問もありますが、コーネリアス号での惑星探査が順調だった時には目立った問題も起こしていませんでしたので、決まったことを決まったとおりにすればいいだけであれば、大丈夫だったのかもしれません。

なお、かつて軍隊では、規律を盾に高圧的に従わせるという形が主流だったそうですが、しかし、現実には軍関係者による問題行動が頻発。軍施設が置かれた地域の住人との軋轢も生んだりと、必ずしも好ましい状態ではなかったと聞きます。

これについては、そもそも、

<規律に従うという適性>

がない者でも採用していたということに加え、その適性のない者を強権によって服従させるというやり方がかえって本人の問題に拍車を掛け、結果、自制心のない兵士を作り出すという状況を作り出していたとのこと。

現在ではそれを改め、採用の段階で適性を厳しく審査。服従を強いなくても自主的に規律に従う者を採用し、かつ、心理的なケアを中心にサポートを行うという形となっているのです。

ただし、訓練は厳しいです。ついていけない者は容赦なくふるい落とすのも目的なので。

しかしあくまで身体的に大きな負荷を掛けるものであり、肉体を鍛える意味も当然あります。

けれど、それをクリアすると今度は、実際の戦場を想定した訓練によって、自分達の任務が、

<命を守るのと同時に、命を奪うこともあるもの>

という事実をしっかりと認識してもらうという段階に。

これにより、肉体的にはついていけていた者も脱落することもある。

生と死の現実を間近で経験するのです。非常に緻密なシミュレーションによって。

正直、この訓練によってPTSDを発症する者さえいます。徹底したメンタルケアを受けていてさえです。

そういう過酷な世界だからこそ、任務を離れた時には安心できるべきなのでしょう。

その意味でも、良好な人間関係が求められる。決して、

<戦場で殺戮を楽しめるのが良い兵士>

ではないのです。

しおりを挟む

処理中です...