獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

普遍的かつ共通する概念

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地球人の社会でも、今もなお根強く残る、

『男は男らしく、女は女らしく』

という概念。

私自身はそれに価値があるとは思いませんが、ここではまだ十分に力を持つのでしょう。

もっとも、兎人とじんの場合は、

『雌は強く逞しく、雄は雌により多く子種を供する』

といった感じでしょうか。

しかしこれが猪人ししじんとなると、

『雄も雌も、強くあれ。ただ強くあれ』

という感じになり、山猫人ねこじんに至っては、

『楽しければ万事Ok』

といった調子なので、種族によってまるで違ってしまうのです。

そのため、

<普遍的かつ共通する概念>

というものがそもそもなく、地球人の社会におけるそれのようには、全体には広がらないのかもしれません。

代わりに、それぞれの種族の考え方についてはあまり口出ししないという暗黙の了解は既に存在しているようですが。

ゆえに、山猫人ねこじん達が祭りの準備に種族を挙げて積極的に参加する様子も見せなくても、それを強く非難するような空気は生まれないという面はありますね。

その一方で、メイミィのように旧来の価値観に対しては違和感を覚える者がいるというのは、地球人と変わらないという感じでしょうか。

だから私としては、

「私は、今のメイミィのことが好きですよ」

と言わせていただきました。兎人とじんの価値観に異を唱えるつもりはありませんが、だからと言ってメイミィに非難が集中するのも好ましいとは思いません。

『好きですよ』

私の言葉を耳にした瞬間、メイミィが照れくさそうにもじもじしました。一方で、

「ワカイヤツ、ノ、カンガエルコト、ワカラン」

ルッセンが苦々しく言います。

この種の世代間ギャップというのはいつの時代でもどこの世でもあるということなんでしょうか。

これも、単なる<愚痴>で済んでいる間はいいのですが、地球人の社会でもいまだに一部残る、互いに相手を罵りあうような、

<世代間対立>

にまで至ると、感情が先に立ってしまって合理的な判断ができなくなってしまう。

しかも、

『合理的な判断をした方がいい』

と言われること自体が苦痛になって、さらに意固地になってしまう悪循環に。

そう。私達軍人は、自分が生きるためにこそ、仲間を生かすためにこそ、<合理的な判断>というものを当然のようにすることを心掛けています。自分の感情に正直なった方が生きる可能性が高いならそうするし、自分の感情を優先することで自分や仲間を危険に曝すなら律します。

でも、軍の場合は、採用試験の時点で適性を見て、選別することができる。適性がある者を選ぶことができるんです。けれど、一般社会はそうはいかない。

自分の感情だけを優先して他者のそれを省みない人も少なからずいるのが当然なんです。

『男は男らしく、女は女らしく』に拘る人も、それに強く反発してしまう人も、そのどちらもいるのが<社会>というもの。

私達はそれと向き合いながらここで生きていきます。

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