獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

変なところで頭が回る

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「ビアンカ~♡」

一つ目のクレーンを設置し終えた時、鼻にかかった甘ったるい声が。

「ニャルソ!?」

ここまで<祭の準備>には参加してなかったのに、突然ニャルソが現れたのです。

「ビアンカ~♡ 僕の用事は終わったよ。みんな満足してくれたから、今度は君を満足させる番だ♡」

満面の笑みを浮かべながら彼は言います。

それでここまで彼がどうしていたのかが分かってしまいました。女性のところを次々と回り、<メイクラブ>にいそしんでいたということですね。

まあ、どうせそんなところだとは思っていましたよ。山猫人ねこじんは実に気まぐれで怠惰ですから。気が向いた者が手伝いに来てくれているだけです。

ただ、その<気まぐれ程度の手伝い>が、大変に大きな力になる。高所での作業は非常に頼りになります。

加えて、山羊人やぎじんは五メートルの高さから転落して体を打ち付けても軽傷で済みましたが、山猫人ねこじんにとってはそもそも五メートル程度の高さからでは、<落ちる>ことさえないのです。彼らにとってそれは、私達地球人が地上で<転ぶ>よりも些細なことでしかない。それこそ、<躓く>程度と言いますか。

五メートル程度の高さからなら、ひらりと飛び降りてしまう。まるで地球の<猫>のように。

まさか例の<不定形な謎の存在>がいた惑星に地球の猫がいたとは思いませんので、おそらく進化の過程で猫に非常に近い形質を得ただけの他の生物だとは思われるのですが、その辺りは現時点では確かめようもないので、あまり気にしていません。

いずれにせよ、私達としては便宜上、既知の生物の特徴を連想させることからそのように呼んでいるだけで、あまり先入観に囚われないようには心掛けています。

心掛けてはいるんですが、ここまで特徴が似ていると、ついついそちらに意識が引っ張られますね。

それに、ニャルソを見ていると本当に猫っぽい気まぐれさを感じるんです。

私自身が<猫好き>ということもあって、余計にそう感じてしまっているだけかもしれませんが。

でも、<猫>は好きですけど、<山猫人ねこじん>は別です……!

「私は忙しいんです。あなたの相手をしている暇はありません」

素っ気なく応える私に、彼は少しも怯まず。

「またまたあ、予定より進んじゃってるんでしょ? だったらちょっとくらいサボっても問題ないじゃん」

知能の面では地球人の十歳くらいの子供と同等程度のはずなのに、どうしてこう、変なところで頭が回るんでしょう? 確かに、地球人の子供にもやけにマセたのもたまにいますが、そういう感じなのでしょうか……?

しかも、ここには今日初めて顔を出したはずにも拘わらず、進捗状況まで把握してる。

まったく…油断なりませんね。

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