獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

技術の向上

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棟梁のルッセンもタセルイ達も、今のこれを<仕事>としては認識していないでしょう。

あくまで、

<祭の準備>

としか、認識していないはずです。

何しろ、給与が支払われるわけではないのですから。

貨幣の概念どころか、物々交換の概念すら浸透していない現状では、元より成立しませんからね。

この楽しい時間を過ごせることが、彼らにとっては何よりの<褒美>なのでしょう。

おとなしくて引っ込み思案にも思えるタセルイでさえ、今のこの時間を楽しんでいるのだと言います。

だとすればなおのこと、望んでいない者に作業をさせるわけにはいきません。それを強いては苦役になってしまいます。

また、むやみに彼らを叱責したりするのも、せっかくの楽しい気分が台無しになってしまうでしょう。

他人を罵りたい人、自身の感情ばかりを優先してもらいたがる人は、他人を一方的に叱責する自身の行為を正当化したいようですが、そのようなことは通用しません。

というのは、あくまで今の地球人の社会での話ですね。

ここではまだそういうことについては考えられていませんし。

そんなことを思いつつも、作業は順調に進みました。

私が出した指示どおりに加工できて、部品として採用されたものを作った兎人とじんの職人が、

「ヨシッ!」

自慢げにガッツポーズを見せます。雌ですが。

でもまあ、えてして雌の方が体も大きく力も強い傾向にある兎人とじんの場合は、なにも不思議ではないですね。

しかし、タセルイも負けてはいません。彼の作った部品も採用され、照れくさそうにしながらも、同時に嬉しそうにも見えました。

なお、<職人>と便宜上読んでいますが、先ほども言った通り給与は出ていませんので、<職>というのは厳密には正しくないのかもしれません。それでも、彼らの能力の高さは<職人>と呼ぶにふさわしいものだとも感じますので、今後もそう称していきたいと思います。

今の時点では、彼らにとっては<名誉>もまた、大切な<褒美>として成立しているようですし。

もちろん、残念ながら部品としては使えなかったものも無駄にはしません。使える部分を残して、<ゴヘノへ御輿>の部品として再利用します。

でもその前に、部品を合わせて縄で縛り、簡易のクレーンが一つ、やぐらに設置できました。

これを、予定では八つ、用意します。

もっとも、このやぐらを作り上げる際の猪人ししじん山羊人やぎじんのパフォーマンスを見た後では、正直、猪人ししじん山羊人やぎじんが力尽くで何とか出来てしまいそうな予感もありますけどね。

だけどすべてをそうやって力尽くで進めるわけにもいきません。

なのでやっぱり、<技術の向上>も望まれるところでしょう。

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