151 / 404
第二部
私と共に
しおりを挟む
そのようなことがありつつ、しかし獣人達はさすがに自分達の頑健さをよく知っているからか、それほど気にしている様子もありませんでした。それどころか、
「ハヤク、シゴト、シタイ」
と催促する始末。地球人のように、
『事故が起こったらまず作業を停止し、安全が確認できるまでは再開できない』
という感覚がないんですね。多分彼らは、たとえ本当に死亡事故が起こっても、仕事は続けようとするでしょう。
そもそも、彼らにとっては死は身近なもの。仲間の死を悼みつつも、だからと言ってすべてを投げ出すこともない。
こちらがそのメンタリティを受け止めるのが大事です。
それは分かってるんですが……
戸惑いを隠しきれないのは事実です。
それでも、その後は大きな事故もなく(と言っても、打ち身や擦り傷程度の怪我は当たり前のように発生しましたが)、作業自体は順調に進みました。楽しそうに。
あの山羊人の作業員も問題なさそうです。
地球でも昔はこのように、良く言えば<おおらか>、悪く言えば<大雑把>という感じだったでしょうし、安全意識が明確に高まってきたのも二十世紀以降というのが定説ですから、今すぐ意識改革ができなくても当然だとは思います。焦っても仕方ないんでしょう。
とは言え、ハラハラしてしまうのも事実。
そんな私の気持ちを察してか、少佐が、
「彼らと私達の<違い>については私も戸惑ってばかりだ。けれど、ビアンカも私もいくつもの戦場を経験してきた者同士。ここも、これまでのそれとは勝手が違うものの、ある意味では<戦場>なんだろうと思う。だから、今までと同じように私と共に困難な状況に立ち向かってほしい」
と、声を掛けてくださいます。
「はい…! もちろんです……! 私こそ、よろしくお願いいたします!」
少佐にそんな風に言われたら、是非もありません。
彼は、私がそう感じることも分かった上でそんな風におっしゃってるんだろうというのも、実は私自身、察しています。だけど今は、そのことさえ愛おしい。
隣に立つ彼に少しだけ近付いて、私は、櫓が組みあがっていく様子を見つめました。もちろん、この場を監督する者の一人として作業そのものにも目を配りつつ、でも心の中では、まるで、祭りの準備を見学に来た<カップル>のような気分もありつつ。
透明な体でこの世界に放り出されたこと自体は決して望ましい事態ではなかったけれど、地球のしがらみから解き放たれた彼とこうしていられることについては、むしろ感謝さえしています。
どんな世界でも、自分の思うようにならないことはあるでしょう。だけど、少佐とこうしていられるのなら、それらすべてが些末な問題でしかなくなってしまうのでした。
「ハヤク、シゴト、シタイ」
と催促する始末。地球人のように、
『事故が起こったらまず作業を停止し、安全が確認できるまでは再開できない』
という感覚がないんですね。多分彼らは、たとえ本当に死亡事故が起こっても、仕事は続けようとするでしょう。
そもそも、彼らにとっては死は身近なもの。仲間の死を悼みつつも、だからと言ってすべてを投げ出すこともない。
こちらがそのメンタリティを受け止めるのが大事です。
それは分かってるんですが……
戸惑いを隠しきれないのは事実です。
それでも、その後は大きな事故もなく(と言っても、打ち身や擦り傷程度の怪我は当たり前のように発生しましたが)、作業自体は順調に進みました。楽しそうに。
あの山羊人の作業員も問題なさそうです。
地球でも昔はこのように、良く言えば<おおらか>、悪く言えば<大雑把>という感じだったでしょうし、安全意識が明確に高まってきたのも二十世紀以降というのが定説ですから、今すぐ意識改革ができなくても当然だとは思います。焦っても仕方ないんでしょう。
とは言え、ハラハラしてしまうのも事実。
そんな私の気持ちを察してか、少佐が、
「彼らと私達の<違い>については私も戸惑ってばかりだ。けれど、ビアンカも私もいくつもの戦場を経験してきた者同士。ここも、これまでのそれとは勝手が違うものの、ある意味では<戦場>なんだろうと思う。だから、今までと同じように私と共に困難な状況に立ち向かってほしい」
と、声を掛けてくださいます。
「はい…! もちろんです……! 私こそ、よろしくお願いいたします!」
少佐にそんな風に言われたら、是非もありません。
彼は、私がそう感じることも分かった上でそんな風におっしゃってるんだろうというのも、実は私自身、察しています。だけど今は、そのことさえ愛おしい。
隣に立つ彼に少しだけ近付いて、私は、櫓が組みあがっていく様子を見つめました。もちろん、この場を監督する者の一人として作業そのものにも目を配りつつ、でも心の中では、まるで、祭りの準備を見学に来た<カップル>のような気分もありつつ。
透明な体でこの世界に放り出されたこと自体は決して望ましい事態ではなかったけれど、地球のしがらみから解き放たれた彼とこうしていられることについては、むしろ感謝さえしています。
どんな世界でも、自分の思うようにならないことはあるでしょう。だけど、少佐とこうしていられるのなら、それらすべてが些末な問題でしかなくなってしまうのでした。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
異世界坊主の成り上がり
峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
山歩き中の似非坊主が気が付いたら異世界に居た、放っておいても生き残る程度の生存能力の山男、どうやら坊主扱いで布教せよということらしい、そんなこと言うと坊主は皆死んだら異世界か?名前だけで和尚(おしょう)にされた山男の明日はどっちだ?
矢鱈と生物学的に細かいゴブリンの生態がウリです?
本編の方は無事完結したので、後はひたすら番外で肉付けしています。
タイトル変えてみました、
旧題異世界坊主のハーレム話
旧旧題ようこそ異世界 迷い混んだのは坊主でした
「坊主が死んだら異世界でした 仏の威光は異世界でも通用しますか? それはそうとして、ゴブリンの生態が色々エグいのですが…」
迷子な坊主のサバイバル生活 異世界で念仏は使えますか?「旧題・異世界坊主」
ヒロイン其の2のエリスのイメージが有る程度固まったので画像にしてみました、灯に関しては未だしっくり来ていないので・・未公開
因みに、新作も一応準備済みです、良かったら見てやって下さい。
少女は石と旅に出る
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893967766
SF風味なファンタジー、一応この異世界坊主とパラレル的にリンクします
少女は其れでも生き足掻く
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893670055
中世ヨーロッパファンタジー、独立してます
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

ペットになった
アンさん
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。
言葉も常識も通用しない世界。
それでも、特に不便は感じない。
あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。
「クロ」
笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。
※視点コロコロ
※更新ノロノロ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる