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第二部
苛酷な環境を生き抜く仕様
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高さ五メートルからの転落。
地球人であれば十分に命を落とす可能性もあるその事故を目撃した私と少佐は、最悪の事態も想定して緊張しました。
けれど、
「タタタタタ…」
転落した山羊人の<作業員>は、まるでただ尻餅でもついた感じで体を起こし、そのままひょいと立ち上がったのです。
「頭は? どこが痛む…!?」
軍に入る前に医師免許を取り、僅かな期間とはいえ実際に医師としての勤務経験を持つ少佐が問い掛けますが、その山羊人は、平然とした様子で頭を掻きつつ、
「チョット、イタイ。デモ、ホネ、オレテナイ。オレ、ヘイキ」
笑顔で応えます。
もちろん少佐はその言葉を鵜呑みにはせず、彼の眼前に自身の人差し指をかざして、
「指は、何本に見える?」
改めて問い掛けます。
「イッポン。ヒトサシユビダ」
続けて、
「この指を見てくれ。しっかりと」
少佐は言いつつ、指を左右に動かします。その後に、今度は指を水平方向に向けて上下にも。
山羊人の作業員が指の動きを確実に目で追えるかどうかを確認しているんです。それによって脳に異常がないかどうかがある程度は推定できます。
けれど、山羊人の作業員はしっかりと少佐の指を目で追っているのが、私からも確認できました。なるほどこれは確かに、問題なさそうにも見えます。
でもそれからも少佐は、腕や足に触れ、
「痛みはないか?」
と問い掛けるのに、山羊人の作業員はやはり平然とした様子で、
「ソコハ、チョット、イタイ。ソコハ、イタクナイ」
応えていくのです。
その様子を見ていた伍長が、
「そいつらはそんなヤワじゃねえよ。その程度で壊れてちゃ、この世界じゃ生きていけねえ」
呆れた様子で言いました。
ただ、悔しいけれど、伍長の言うことにも一理あるのは私にも分かります。彼らは野生とそれほど違わない生き方をしている種族。しかも山羊人は山の中を延々と移動し続けることもあり、時には崖から落ちるようなことも珍しくないとか。
しかしそれだけで命を落とすことは滅多にない。
地球人が文明や技術を発展させる間に失ってしまった頑健な肉体を、彼らは持っている。
その事実をまざまざと見せ付けられたのです。
「どうやら今のところは確かに大きな損傷の所見はない。大したものだ」
少佐も感心したように口にします。転落の途中で足場に体を打ちつけたことで落下速度が抑制され、衝撃が緩和されたのだとはいえ、素直に驚かされますね。
彼らにとっては五メートル程度の高さは<高所>には当たらないのかもしれません。加えて、足場や地面への衝突の際に自然と受身のような姿勢をとっていたのも見えました。
肉体そのものが、
<苛酷な環境を生き抜く仕様>
になっているということなのでしょう。
地球人であれば十分に命を落とす可能性もあるその事故を目撃した私と少佐は、最悪の事態も想定して緊張しました。
けれど、
「タタタタタ…」
転落した山羊人の<作業員>は、まるでただ尻餅でもついた感じで体を起こし、そのままひょいと立ち上がったのです。
「頭は? どこが痛む…!?」
軍に入る前に医師免許を取り、僅かな期間とはいえ実際に医師としての勤務経験を持つ少佐が問い掛けますが、その山羊人は、平然とした様子で頭を掻きつつ、
「チョット、イタイ。デモ、ホネ、オレテナイ。オレ、ヘイキ」
笑顔で応えます。
もちろん少佐はその言葉を鵜呑みにはせず、彼の眼前に自身の人差し指をかざして、
「指は、何本に見える?」
改めて問い掛けます。
「イッポン。ヒトサシユビダ」
続けて、
「この指を見てくれ。しっかりと」
少佐は言いつつ、指を左右に動かします。その後に、今度は指を水平方向に向けて上下にも。
山羊人の作業員が指の動きを確実に目で追えるかどうかを確認しているんです。それによって脳に異常がないかどうかがある程度は推定できます。
けれど、山羊人の作業員はしっかりと少佐の指を目で追っているのが、私からも確認できました。なるほどこれは確かに、問題なさそうにも見えます。
でもそれからも少佐は、腕や足に触れ、
「痛みはないか?」
と問い掛けるのに、山羊人の作業員はやはり平然とした様子で、
「ソコハ、チョット、イタイ。ソコハ、イタクナイ」
応えていくのです。
その様子を見ていた伍長が、
「そいつらはそんなヤワじゃねえよ。その程度で壊れてちゃ、この世界じゃ生きていけねえ」
呆れた様子で言いました。
ただ、悔しいけれど、伍長の言うことにも一理あるのは私にも分かります。彼らは野生とそれほど違わない生き方をしている種族。しかも山羊人は山の中を延々と移動し続けることもあり、時には崖から落ちるようなことも珍しくないとか。
しかしそれだけで命を落とすことは滅多にない。
地球人が文明や技術を発展させる間に失ってしまった頑健な肉体を、彼らは持っている。
その事実をまざまざと見せ付けられたのです。
「どうやら今のところは確かに大きな損傷の所見はない。大したものだ」
少佐も感心したように口にします。転落の途中で足場に体を打ちつけたことで落下速度が抑制され、衝撃が緩和されたのだとはいえ、素直に驚かされますね。
彼らにとっては五メートル程度の高さは<高所>には当たらないのかもしれません。加えて、足場や地面への衝突の際に自然と受身のような姿勢をとっていたのも見えました。
肉体そのものが、
<苛酷な環境を生き抜く仕様>
になっているということなのでしょう。
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