獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

それ自体を楽しんでしまおうという姿勢

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そんな形で日々を過ごし、いよいよ木材の数が目標値に達しました。

その間に、他の<資材>についても準備します。

乾燥させた植物の繊維をより合わせた縄。

動物の皮を縫い合わせて作ったシート。

本当なら製鉄を行い<はがね>を確保したかったのですがさすがにそこまでは容易ではなく、そもそも<高炉>を建造するのに必要な知識が私達になく、よしんば鉄を得られたとしてもそれを<鋼>に鍛えるための技術も私達にはないのです。

いかに人間が、互いに力を合わせなければ文明すら維持できないのかがよく分かります。軍人だけが何人もいたところで文明は成立しないのだと。

私達軍人は、鉄を精製する技術者でもなければ、鉄を鋼に変える職人でもありません。たまたまその技術を持っている者が私達の中にいたとしても、それは決して、

<軍人だからできること>

じゃないんです。

それを心に刻み、

『獣人達と力を合わせて事をなす』

のを心掛けます。その事実を忘れ慢心すると、大きなしっぺ返しが来る。

地球人は、その歴史の中で何度もそういう失敗を繰り返してきたはずです。歴史を学び、先人達の研鑽と失敗を学んでこそ、私達は先に進むことができる。

それはここでも変わらない。

変わらないのです。

「では、いよいよ、<ゴヘノヘ御輿>の製作に取り掛かりましょう」

以前、<対ゴヘノヘ用決戦兵器>の建造のために確保した広場に獣人達を集め、少佐が声を上げます。

「ウオオオーッッ!!」

集まった獣人達が歓声を上げました。要するに<お祭りの準備>という認識だから、皆、表情は明るいですね。

そしてその場で、

<ゴヘノヘ御輿を作るためのやぐら>の建設が始まります。

設計の段階では、全高七メートル、全幅四メートル、全長十三メートル、総重量八トンの巨大な御輿になると見られる<ゴヘノヘ御輿>。

私達が元いた世界ではロボットを使えば数日で完成してしまうであろうそれも、ここでは約百日をかけて建造するのが目標という、一大プロジェクトでした。

でも、種族の壁も超えてこうやって皆で何かを成し遂げようというのは、やはりなんともいえない高揚感があるようですね。

割とおとなしい方だという印象のあるメイミィやラレアトでさえ、興奮を隠しきれない様子。

「オミコシ、オミコシ!」

「ワッショイ! ワッショイ♡」

楽しそうに声を上げて踊るように体を動かしていました。

ゴヘノヘという<脅威>に対する備えという一面も持つ今回のプロジェクトですが、それ自体を楽しんでしまおうという姿勢そのものは、古来より地球の各地に伝わる<祭>にも通じるものでしょうね。

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