獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

生身の人間の営み

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そういう点からも、私達は、

<特定の誰かにのみ都合のよい社会>

は目指しません。ノーラやレミニィにとっても完璧な社会にはならないでしょう。何らかの生き難さは残ってしまうでしょうね。

それでも、努力はしたい。

努力を忘れた人間の末路は、いつだって憐れなものだったのではないでしょうか?

私達はそれを心に刻みます。

そんなことを思いつつ私がお風呂から上がると、クレアはもう寝ていました。伍長のベッドで。

完全な個室までは作れませんでしたので、細い木を組み合わせた衝立で簡単に間仕切っているだけのプライベートスペースですけど、ないよりはマシでしょう。

そして私は、少佐のベッドが置かれたスペースを覗き込みます。休んでらっしゃる少佐を見ると思わず笑顔が。

少佐は、子供のように体を丸めて寝る癖がありました。それが、普段は見せない彼の一面を窺わせて、なんだか胸があたたかくなるんです。

そんな彼の力になりたくて。

彼と結ばれるには、やはり、さらに<家>を建てないといけないでしょうね。ここでは、落ち着いて愛し合うこともできません。

なんて、顔が火照ります……♡

自分でも赤くなってるだろうなと分かるくらいに熱を帯びた頬を手で覆いつつ、私は店の方を窺いました。

するとフロイが接客しているところでした。と言っても、<お客>が求めてる商品を手渡すだけのそれですが。

まだ、物々交換すら定着していないので。

そうしてフロイの働きぶりが見える場所で壁に背中を預けて寛ぎます。

本さえないため暇を潰す方法も限られていますが、こうしてぼんやりと店の様子を感じているだけでも悪くはありませんね。

でも、もし、少佐と結ばれたら、きっと、ずっと彼の腕に抱かれてまどろんでいたいと思ってしまうでしょう。

と言うか、正直、今でもそれを望んでいます。

地球の名家<久利生くりう家>の頚木から解き放たれた彼は、今、とても穏やかな気持ちでいるのが分かります。

かつてはそれを慰めて癒してあげたいと思っていて、その必要がなくなってしまったのは少し残念にも思いつつ、だけど少佐が穏やかでいられるのならそれが一番ですよね。

つくづく、ここは、生身の人間の営みが濃密に感じられる場所だと改めて思います。

私達以外は<獣人>ですが、その程度のことは些細な話です。

と、いつもの通り<カラスの行水>を終えた伍長がリビングにどっかと腰を下しました。その気配を少し煩いと感じつつも、そういう煩わしさも<お互い様>というものでしょうね。

何しろ伍長にとっていれば私の長風呂(いえ、別に私が特別長いのではなく、あくまで標準的なレベルだとは思いますが)も、きっと煩わしいものなのでしょうし。

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