獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

給与代わり

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朝夕の食事が<給与代わり>というのは、地球人の社会では完全に不法行為ではあるものの、ここにはまだその<法律>が存在しないので、問題とはなりません。そもそも、貨幣制度も成立してない現状では、<給与>を払いようがないんです。

まず、家賃も必要ないし、光熱費も要らないし、食費も掛からない。生活するうえで必要な<コスト>というものがない。

だから、

『自分で食事を調達する必要がなくなる』

だけでも、十分なメリットになる。

ちなみに、梟人きょうじん達は空を飛ぶ(厳密には滑空ですが)必要性からかそれほど量は食べません。エネルギー効率がいいんだと思われます。食事も基本は朝夕の二回というのが普通のようです。

ただ、<間食>はこまめに取るようですね。それについては、店のものを食べてもらってもいいし、自分で調達してもらってもいい。本人に任せています。



今日はノーラ達は自宅で夕食にするらしく、クレアに届けてもらいます。

「どうかな。仕事にも慣れたかな?」

少佐がフロイに穏やかに問い掛けます。そんな彼にフロイも安心したように、

「ウン、ナレテキタ」

と落ち着いた様子で応えてくれました。

私達は、決して彼らに対して高圧的には振る舞いません。私達と彼らとは、あくまで対等な関係。従属させるために怒鳴ったり威圧する必要はまったくないんです。

これは、今後、この地にできていくであろう獣人達の社会においても、不必要な諍いを生まないために重要なことだと私達は考えています。

山羊人やぎじんの集落においてノーラが虐げられていたりということもありましたけど、実は、獣人達の間では、私達地球人がかつてそうだったような、立場が上の者が下の者を怒鳴ったり威圧したり暴力をふるったりして従属させるという行為が、意外なほど、蔓延してはいなかったんです。

これはおそらく、まだそこまで複雑な社会ではないことで、さほど困難な役目というもの自体が存在せず、そこまでする必要がなかったというのもあるのかもしれません。

なので、せっかくそういう環境なのですから、わざわざ、

『立場が上の者が下の者を怒鳴ったり威圧したり暴力をふるったりして従属させる』

という感覚を育てて<諍いの種>を作る必要もないでしょう。相手に一方的な従属を求めるような接し方がどのような問題を生んできたか、無数の実例があるのですから、穏やかに丁寧に教え諭すという習慣を育てていくのが穏当でしょう。



夕食を終えると、私は片付けを済ませてお風呂にします。やはりこれが一番の安らぎですね。

フロイは店番。少佐は早朝からの勤務に向けて休みます。

と、私がお風呂で寛いでいると、

「おう! またな!」

目を覚ましたらしい伍長の声が外から届いてきたのでした。

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