獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

戦士ルンガ

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「以上で報告を終わります」

鼠人そじん達と兎人とじん達の仕事ぶりを確認し少佐に報告した私は、そう締め括りました。

「ありがとう。確かに私達の予測よりも彼らの能力や適性は高かったみたいだね。素晴らしいよ」

各集落との折衝を終えた少佐は、少し赤い顔をしています。きっと酒宴につき合わされたんでしょう。それ自体が今の少佐の役目ですから、

『勤務中に飲酒とか!』

という話にはなりません。獣人達の習慣には可能な限りこちらが合わせるのが道理でしょう。私達は、本来、異邦人ストレンジャーなのですから。

けれど、私の報告を聞き終えて立ち上がろうとした少佐が、少しふらつきました。彼には珍しいことでした。

「大丈夫ですか? 少佐。体調がすぐれないのでは?」

私の問い掛けに、彼は、

「ああ、確かに。ルンガが戦士のリーダーに昇格した祝いも兼ねたものだったから、いつも以上に酒を勧められてね」

と苦笑い。

<ルンガ>というのは、猪人ししじんの戦士の一人で、先日行われた、

<最強の戦士を決める試合>

で見事に優勝し、戦士のリーダーとなった者だそうです。<ゴヘノヘ襲来>の際にも猪人ししじんの戦士の中でも最も勇猛に戦った一人でもあります。あの戦いではブオゴも立派に戦ったのですが、彼はまだ若く、<最強の戦士を決める試合>への参加資格がないとのこと。

ちなみに、<最強の戦士を決める試合>というのは、実はいくつかの種類があって、世代別に分かれているようですね。

とは言え、上の世代の者は下の世代の<最強の戦士を決める試合>にも参加できるそうなので、割とアバウトみたいですが。

で、ルンガが優勝したのは、一番上の世代の、ある意味では、

<戦士のリーダーを決めるための試合>

でもあるもので、そこでそれまで戦士のリーダーだった猪人ししじんを真っ向退けての文句なしの勝利を収めた雌だそうです。

そう。<雌>です。実力主義が大原則の猪人ししじんの世界では、強ければ雄も雌も関係ないのです。

それでも、戦士のリーダーとなった者については、雄が五に対して雌は一くらいと、やはりいくらかは身体能力的な差異はあるらしいですね。

しかし、<実力主義>を標榜する猪人ししじんの雌は、だからこそその事実を受け入れて、

『もっと雌のリーダーを増やすべきだ!!』

的なことは言わないとのこと。

『リーダーになりたいなら強くなれ!!』

というのが徹底されてるわけですね。

むしろ雌の方が、

『強くない雄は要らない!!』

って感じのようです。

地球人の社会ではまあいろいろ言われそうな考え方ですが、地球人の考え方を押し付けるわけにはいきません。

それに私も、その方が、

猪人ししじんらしいや』

と思いますから。

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