獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

声だけ大きい人

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以上、長々と語りましたが、ノーラやレミニィを私達が切り捨てないのはそれが根拠の一部です。

自分にとって不要と感じる者を排除したがる人達が張る論陣に対抗するには、これでも全然足りないくらいでしょう。

『長話なんて聞いてられない』

などと口にする人もいるでしょうが、そういう方々は、学術論文や裁判資料というものを知らないのかもしれませんね。

この世には、僅か数行の文章で表現できてしまうものばかりが存在するわけじゃないんです。

『自分の家族がハンデを抱えてるからって見殺しにできないだろ!』

だけでは納得してくれない人もこの世にはいるんです。もっとも、そういう人達は、結論ありきでこちらがいくら言葉を重ねても論拠を提示しても耳を貸さないことも多いですが。

しかし、だからといって黙っていたのでは、そういう人達は、

『自分の言ってることが正しいから反論できないんだ』

などと自分にばかり都合の良い解釈をして勝ち誇ることも多いので、『そうではない』と声を上げ続けることが必要でもあります。

『家族や仲間を見捨てられない』

というのは、群れることでしか生きられない人間には必要な感性なのです。

戦場でもない場所で、緊急に迫られた状況でもない環境で、

『役に立たないから切り捨てる』

などという考えを認めていては、

『<ネット上で声だけ大きい人>なんて役に立たないから切り捨ててしまえ』

的な考えを為政者が持ってしまっては、それを止めることができなくなるんじゃないですか?

実際、

『<声だけ大きい人>という者は、役に立たないどころか社会にとっては害悪である』

という考え方をする方もいらっしゃいますよね?

そのような形で、いつ、自分の身に降りかかってくるかも分からないのです。だから、

『役に立たないから切り捨てる』

という考え方を、今の人間社会は認めることができない。

それを忘れてはいけないでしょう。

だから私達は、ノーラもレミニィも見捨てない。

少なくとも、緊急事態の中で<命の選択>を求められるような状況にでもならない限りは。

ちなみに私は、そういう事態に陥った時に、見ず知らずの<声だけ大きい人>とノーラやレミニィのどちらを選択するかと言われれば、躊躇うことなくノーラやレミニィを選びます。

彼女達は、私達の<仲間>です。どこの誰とも知れない<声だけ大きい人>と比べることはできません。

もっとも、そんな状況でも、私達は最後まで<全員を救える方法>を諦めることはありませんが。

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