獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

近視眼的なものでしかない

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人間がまだ地球だけを生存圏としていた頃、LGBTや非婚者に対する偏見や風当たりも今よりずっと強かったと聞きます。

『生物として正常ではない』

というのがその根拠だったようですが、実際には、野生の動物でも同性のカップルというものは存在しますし、繁殖に積極的でない個体というのも、もちろん数は少なく例外的なそれであっても、現に存在するんです。『生物として正常ではない』という認識自体が正しくない。

なのに、それを言うと今度は、

『生理的に受け付けない!』

『生産性がない!』

などと変節する。

『認めたくない』という結論が先にあって、<根拠>となるものは後から考えるという、およそ<論理的>とは言えない論陣を張るというのが、否定派の特徴ですね。

私は男性である少佐のことを愛していますし、いずれは結ばれてできれば子供もと思っています。

ですが、だからといってLGBTや非婚者を否定するつもりもありません。確かに私自身、理解が十分でなかった頃にはただ漠然と異物感を抱いていましたが、今ではどう受け止めればいいのかも私の中で確立していますから、何も問題ありません。

同性の方に好意を寄せられても、好きになれる可能性がないのであればお断りすればいいだけです。なぜなら、相手が異性であっても、好きになれないと思えば断るのが当然なのですから。

たとえ相手が異性であろうと、好意を寄せられたからといって必ずしも付き合わなければいけないものでもない。

それは相手が同性であっても同じなんです。

LGBTの存在を認めることと、同性の相手からの好意を受け入れるかどうかは、まったく別の話です。

『同性から好意を寄せられる生理的嫌悪感を考えろ!!』

という意見についても、

『たとえ相手が異性であっても、『生理的に無理!』ということは珍しくもないですよね? 好意を持たれているというだけでも吐き気をもよおすレベルというのも、日常的にあることですよね?』

という話ですし。

私は男性ではないので男性の場合がどう感じるかは分かりませんが、少なくとも女性としての本音を言わせてもらえるなら、

『この男性とは死んでも無理!!』

というのは普通にありますよ? 

『その男性と付き合うくらいなら、女性と付き合ったほうがマシ』

と感じることは、現にありました。

『好意を寄せられる生理的嫌悪感を考えろ!!』

などとおっしゃるのでしたら、そういう異性から寄せられる好意についてはどう対処してくださるんですか? 対処のしようもないでしょう?

結局はそういうことなんです。

同性であっても異性であっても無理なものは無理。それだけの話なんです。

ゆえに非婚者についても、

『結婚に踏み切れるだけの相手がいない』

のに結婚させようなどと、非婚者本人にとっては『同性に好意を寄せられる』以上に不快なことじゃないんですか?

かように、『生物として正常ではない』かどうかで価値を論じるのは、近視眼的なものでしかないのです。

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