獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

レミニィ

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そうして私が兎人とじん達の作業を確認していると、

「オハヨウ」

声が掛けられました。その聞き覚えのある声に振り向くと、そこには兎人とじんが二人。

メイミィとレミニィでした。その手には、それぞれカゴが。

<よろずや>からも食料の差し入れは行っているのですが、それとは別に、兎人とじん達自身でも食料を用意していてそれをメイミィとレミニィが運んできたわけですね。

少しおどおどしているけど基本的に表情は明るいメイミィに対して、レミニィは無表情でした。と言うのも、レミニィは自身の感情を上手く制御できない部分があるんです。しかもその一方で、時折、<発作>という形で感情を爆発させ、自傷行為に至ったり場合によっては他者に攻撃性を向けることもある。

おそらく発達障害の一種であろうことは私達にも推測できるのですが、根本的な治療法がないここでは、それと上手く折り合いながら生きていくしかないのも事実。

幸い、その<発作>に対しては<ホコの実>という果実が非常に効果的なので、発作の兆候が見られた時に摂取させると抑えることもできます。

以前は、<ホコの実>が山猫人ねこじん達の集落近くに生っていることが多く、兎人とじん達としてはあまり近付きたくないこともあって発作が起こってから仕方なく採りに行く形が多かったものが、私達が<よろずや>を立ち上げ、<ホコの実>についてもストックするようになったことで、手持ちがなくなったら<よろずや>で補充するという形がとれ、最近ではトラブルも少なくなったとか。

かつて、同じ症状を持つ者がいた時には、<発作>が起こって取り押さえた際に無理をしたことで患者が窒息、命を落としたという事例もあったそうです。

十分な対処法もなかった当時のことですから責任を問うのも酷な話というものでしょう。しかし、好ましい事態でないのも事実。となれば、私達にできることであれば力になるのも道理だと思います。

それもあり、こうして今ではメイミィと一緒に食料を運ぶ仕事もできるようになった。

以前は、いつ、発作が起こるか分からないので、基本的には家に閉じ込めておくしかなかったそうです。

と、その時、

「ウウ……」

レミニィが小さく呻き声を上げながらその場にうずくまりました。<発作の兆候>です。

でも、メイミィは慌てることなく体に掛けていたポシェットのような物から<ホコの実>を取り出し、

「レミニィ、タベテ」

と差し出しました。するとレミニィも素直に口にします。

実は<ホコの実>はあまり美味しいものじゃないとのこと。でも、発作が起こりそうな時や起こった時に食べると気分が落ち着くので、進んで食べようとするみたいですね。

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