獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

鼠人達の誇り

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私は、食事を入れたカゴをいつものところに置いて、しばらくの間、鼠人そじん達の仕事ぶりを見ていました。

すると、彼ら自身、作業に慣れてきたこともあってか、一見しただけでも明らかに効率が向上していたのです。これは完全に私達が彼らの能力を見誤っていましたね。

彼らの体の小ささに認識が引っ張られていたのでしょう。改めて私達の常識は通用しないのだと実感させられます。

また、彼ら自身、実に熱心に仕事に取り組んでいるんです。手馴れた様子で木の幹を齧り、次々と倒していきます。その光景は、壮観ですらありました。

加えて彼らの表情が、働く喜びに溢れているんです。自分達の働きが大変な功績を生むことを誇りに感じているのが、全身から発せられている。

私達の存在が彼らの在り方を歪めてしまったことは、厳然とした事実でしょう。しかしそれが彼らにとっての苦痛になっていないのであれば、私達自身、救われる想いです。

「ビアンカ、オレタチハ、ヤクニ、タッテルカ?」

ティクラが私に問い掛けてきます。

「はい、もちろんです! ありがとうございます!」

私は自分でも分かるくらい、満面の笑顔になっていたのでした。



それから<よろずや>に戻った私は、再度食事の用意をします。今度は兎人とじん達の作業現場に届けるためです。

こうして私が出向けるのも、トームとクレアがしっかりと店を守ってくれているおかげですね。

その事実を噛み締めつつ、兎人とじん達の、作業現場へと向かいます。今回向かうのは、メイミィがいる兎人とじん達の方です。

ですが、私が歩いていると、

「ビア~ンカ♡」

鼻に掛かった、甘えるような声が掛けられます。

「……!」

思わずその声の方に視線を送ってしまいましたが、それが誰のものかは、もう察せられていました。

「ニャルソ……」

そう、私が視線を向けた先にいたのは、木の枝に横たわって尻尾を揺らしているニャルソでした。

私を<雌>として狙っている。

「ごめんなさい。私、先を急ぐので」

山猫人ねこじんは、雄雌共に、パートナーがいても、いいと思う相手がいればこうやってアプローチを掛ける習性がありました。

私達地球人の<常識>では眉をひそめる人も多い、私にとってもはっきり言って好ましいと思えないそれも、彼ら山猫人ねこじんが元々持っている習性であり、私達があれこれ口出しすることではないのですが、山猫人ねこじん同士でやっている分には構わないのですが、だからといって私が彼らの習性に合わせる必要もないのは事実です。

なにより、ニャルソのような軽薄な態度は、私の好みに合わないのです。

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