獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

臆病者フロイ

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フロイがあの時逃げ出したのは、恐怖に駆られたからです。

そして、彼らにそういう恐怖感と向き合うための心構えなどを教えられるだけの余裕は、あの時はありませんでした。

だとすれば、彼が恐怖に駆られて逃げ出すことを責めるわけにはそもそもいきません。準備が不十分だったのは、作戦を統括する私と少佐と伍長の責任なんです。

『他の奴らは逃げなかった!』

なんていうのは、言い訳にはなりません。恐怖への立ち向かい方には個人差が大きいからです。その事実が分かっているのに対処しないのは、全体を把握すべき立場の者の怠惰でしかない。

『十分な対処ができるだけの時間がなかった』

それを言い訳にするなら、

『恐怖への立ち向かい方には個人差がある。誰もが一様に立ち向かえるわけじゃない』

ことも言い訳として認めないとおかしい。

『十分な対処ができるだけの時間がなかった』ことは確かに事実なので、となれば、当然、『恐怖への立ち向かい方には個人差がある。誰もが一様に立ち向かえるわけじゃない』ことも認めるべきなのです。

少なくとも私達は、そう教わってきている。

物事を客観的に俯瞰的に見られるように十分な指導を受けてきている。

であれば、私達が対処すべきことなのです。

とはいえ、それをフロイ自身に理解してもらうのは、

『そもそも受けてきた指導がまったく違う』

事実を抜きにしては考えられません。

根性論や精神論は、現実の前には非力なのです。根性論や精神論を体現できるのはごく一部の例外のみ。その例外をあてにしていて軍隊という組織は成立しません。

必要なのは確実に機能する信頼性。それを担保するのは、徹底した準備と訓練です。そのどちらも確保できなかったのですから、フロイの行動を非難するのは筋違い以外の何物でもないのです。

伍長でさえ、それを分かっています。だからフロイを叱ったりもしない。

ただフロイ自身が自らの行動を負い目に感じているのを、彼自身の納得へと導くために、<代償>を提示したに過ぎない。

それが、<よろずやで働くこと>ということですね。

しかし、経緯はどうあれ、基本的に夜行性の梟人きょうじんが従業員に加わってくれることで、私と少佐と伍長の三人で二十四時間営業を行うという無謀なオペレーションはようやく解消の目処が立ちました。

もちろん、夜間の営業をフロイ一人に完全に任せてしまうことはできなくても、私と少佐と伍長が交代で夜間を担当すればいいわけですから、これまでよりずっと楽になります。

しかも、<休日>も取れるようになるでしょう。

<よろずや>での仕事は決して辛いものではありませんでしたが、それでも休日があるとないのとでは、やはり気分が違うでしょうね。

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