120 / 404
第二部
臆病者フロイ
しおりを挟む
フロイがあの時逃げ出したのは、恐怖に駆られたからです。
そして、彼らにそういう恐怖感と向き合うための心構えなどを教えられるだけの余裕は、あの時はありませんでした。
だとすれば、彼が恐怖に駆られて逃げ出すことを責めるわけにはそもそもいきません。準備が不十分だったのは、作戦を統括する私と少佐と伍長の責任なんです。
『他の奴らは逃げなかった!』
なんていうのは、言い訳にはなりません。恐怖への立ち向かい方には個人差が大きいからです。その事実が分かっているのに対処しないのは、全体を把握すべき立場の者の怠惰でしかない。
『十分な対処ができるだけの時間がなかった』
それを言い訳にするなら、
『恐怖への立ち向かい方には個人差がある。誰もが一様に立ち向かえるわけじゃない』
ことも言い訳として認めないとおかしい。
『十分な対処ができるだけの時間がなかった』ことは確かに事実なので、となれば、当然、『恐怖への立ち向かい方には個人差がある。誰もが一様に立ち向かえるわけじゃない』ことも認めるべきなのです。
少なくとも私達は、そう教わってきている。
物事を客観的に俯瞰的に見られるように十分な指導を受けてきている。
であれば、私達が対処すべきことなのです。
とはいえ、それをフロイ自身に理解してもらうのは、
『そもそも受けてきた指導がまったく違う』
事実を抜きにしては考えられません。
根性論や精神論は、現実の前には非力なのです。根性論や精神論を体現できるのはごく一部の例外のみ。その例外をあてにしていて軍隊という組織は成立しません。
必要なのは確実に機能する信頼性。それを担保するのは、徹底した準備と訓練です。そのどちらも確保できなかったのですから、フロイの行動を非難するのは筋違い以外の何物でもないのです。
伍長でさえ、それを分かっています。だからフロイを叱ったりもしない。
ただフロイ自身が自らの行動を負い目に感じているのを、彼自身の納得へと導くために、<代償>を提示したに過ぎない。
それが、<よろずやで働くこと>ということですね。
しかし、経緯はどうあれ、基本的に夜行性の梟人が従業員に加わってくれることで、私と少佐と伍長の三人で二十四時間営業を行うという無謀なオペレーションはようやく解消の目処が立ちました。
もちろん、夜間の営業をフロイ一人に完全に任せてしまうことはできなくても、私と少佐と伍長が交代で夜間を担当すればいいわけですから、これまでよりずっと楽になります。
しかも、<休日>も取れるようになるでしょう。
<よろずや>での仕事は決して辛いものではありませんでしたが、それでも休日があるとないのとでは、やはり気分が違うでしょうね。
そして、彼らにそういう恐怖感と向き合うための心構えなどを教えられるだけの余裕は、あの時はありませんでした。
だとすれば、彼が恐怖に駆られて逃げ出すことを責めるわけにはそもそもいきません。準備が不十分だったのは、作戦を統括する私と少佐と伍長の責任なんです。
『他の奴らは逃げなかった!』
なんていうのは、言い訳にはなりません。恐怖への立ち向かい方には個人差が大きいからです。その事実が分かっているのに対処しないのは、全体を把握すべき立場の者の怠惰でしかない。
『十分な対処ができるだけの時間がなかった』
それを言い訳にするなら、
『恐怖への立ち向かい方には個人差がある。誰もが一様に立ち向かえるわけじゃない』
ことも言い訳として認めないとおかしい。
『十分な対処ができるだけの時間がなかった』ことは確かに事実なので、となれば、当然、『恐怖への立ち向かい方には個人差がある。誰もが一様に立ち向かえるわけじゃない』ことも認めるべきなのです。
少なくとも私達は、そう教わってきている。
物事を客観的に俯瞰的に見られるように十分な指導を受けてきている。
であれば、私達が対処すべきことなのです。
とはいえ、それをフロイ自身に理解してもらうのは、
『そもそも受けてきた指導がまったく違う』
事実を抜きにしては考えられません。
根性論や精神論は、現実の前には非力なのです。根性論や精神論を体現できるのはごく一部の例外のみ。その例外をあてにしていて軍隊という組織は成立しません。
必要なのは確実に機能する信頼性。それを担保するのは、徹底した準備と訓練です。そのどちらも確保できなかったのですから、フロイの行動を非難するのは筋違い以外の何物でもないのです。
伍長でさえ、それを分かっています。だからフロイを叱ったりもしない。
ただフロイ自身が自らの行動を負い目に感じているのを、彼自身の納得へと導くために、<代償>を提示したに過ぎない。
それが、<よろずやで働くこと>ということですね。
しかし、経緯はどうあれ、基本的に夜行性の梟人が従業員に加わってくれることで、私と少佐と伍長の三人で二十四時間営業を行うという無謀なオペレーションはようやく解消の目処が立ちました。
もちろん、夜間の営業をフロイ一人に完全に任せてしまうことはできなくても、私と少佐と伍長が交代で夜間を担当すればいいわけですから、これまでよりずっと楽になります。
しかも、<休日>も取れるようになるでしょう。
<よろずや>での仕事は決して辛いものではありませんでしたが、それでも休日があるとないのとでは、やはり気分が違うでしょうね。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
魔導兇犬録:HOLDING OUT FOR A HERO
蓮實長治
ファンタジー
そこは「この現実世界」に似ているが様々な「異能力者」が存在し、科学技術と超常の力が併存する平行世界の近未来の日本。
ひょんな事から「魔法少女」への夢を断たれ、新しい人生を歩み出した中学生・大石撫子は、ある日、世にも無茶苦茶な自称「魔法少女」に襲撃される。
背後関係を探る内に、世にもみみっちいのに、世にも洒落にならない犯罪者グループに行き当たり……?
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(GALLERIAは掲載が後になります)
設定資料は下記になります。(PDFファイル)
https://drive.google.com/file/d/1OxMc42m6izoE8qIBkl15Yvql8CCPnbsn/view?usp=sharing
美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する
くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。
世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。
意味がわからなかったが悲観はしなかった。
花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。
そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。
奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。
麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。
周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。
それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。
お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。
全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません
真理亜
ファンタジー
第二王子のマリウスが学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付けた相手は人違いだった。では一体自分の婚約者は誰なのか? 困惑するマリウスに「殿下の婚約者は私です」と名乗り出たのは、目も眩まんばかりの美少女ミランダだった。いっぺんに一目惚れしたマリウスは、慌てて婚約破棄を無かったことにしようとするが...
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が子離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい
三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです
無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す!
無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!
移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる
みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」
濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い
「あー、薪があればな」
と思ったら
薪が出てきた。
「はい?……火があればな」
薪に火がついた。
「うわ!?」
どういうことだ?
どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。
これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。
アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~
志位斗 茂家波
ファンタジー
新入社員として社会の波にもまれていた「青葉 春」。
社会人としての苦労を味わいつつ、のんびりと過ごしたいと思い、VRMMOなるものに手を出し、ゆったりとした生活をゲームの中に「ハル」としてのプレイヤーになって求めてみることにした。
‥‥‥でも、その想いとは裏腹に、日常生活では出てこないであろう才能が開花しまくり、何かと注目されるようになってきてしまう…‥‥のんびりはどこへいった!?
――
作者が初めて挑むVRMMOもの。初めての分野ゆえに稚拙な部分もあるかもしれないし、投稿頻度は遅めだけど、読者の皆様はのんびりと待てるようにしたいと思います。
コメントや誤字報告に指摘、アドバイスなどもしっかりと受け付けますのでお楽しみください。
小説家になろう様でも掲載しています。
一話あたり1500~6000字を目途に頑張ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる