獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
104 / 404

スローモーション

しおりを挟む
人間には、自身に理解できないもの、興味が持てないもの、感性に合わないものは見下し、蔑むという、残念な悪癖があることはよく知られていますが、この時の猪人ししじん達をそうやって見下す人がいるとしたら、私はとても悲しいと思います。

彼らの<拘り>がいかなるもので、どうしてこの時にはそれが覆ってしまったのかは、彼らにしか分からないことでしょう。それを猪人ししじんではない者が推し量るなど、傲慢以外の何物でもないと私は思うのです。

理由なんかどうでもいい。今はただ、協力が得られたことを感謝したい。

ブオゴの接近に気付いたゴヘノヘが、尻尾で彼を薙ぎ払おうとしました。が、ブオゴは地面すれすれまで屈み、躱します。

何という反射神経と身体能力。分かっていはいましたが、改めて感心させられました。

そして弾かれるようにして体を起こし、尻尾の付け根辺りに杭ごと体当たりするかのように、どすん、と。

「ゴォアアアアーッッ!!」

咆哮を上げながらゴヘノヘが反転、腕を伸ばしブオゴを掴もうとします。

しかし、私達も黙って見ていません。

少佐と共に頭目掛けて槍を投擲、目の辺りに刺さったことで一瞬動きが止まり、ブオゴは離脱することができました。

するとゴヘノヘは今度は私目掛けて大きく口を広げます。

鋭い牙が並んだ、血のような真っ赤な口腔。あれに捕らえられればただの人間でしかない私達など、一秒と生きていられないでしょうね。

全力で離脱しようとするものの、明らかにゴヘノヘの方が早い。

『死―――――!』

スローモーションを思わせる、なぜかゆっくりと感じる世界の中で、私は自身の死を意識しました。

一度はすでに死んだ身ですので、まさか二度も死を経験することになるとは……

ですが、その瞬間、

「スクリーム!」

少佐の声と共に、

「ロロロロロロロロロロローッッ!!

梟人きょうじん達による再びの音響攻撃。

ゴヘノヘの意識が私に集中したことで、梟人きょうじん達が足を止められるだけの隙ができたのです。

けれど、私も、頭をガツンと殴られたような感覚に、意識が一瞬遠のきます。

スクリームの効果範囲のすぐ傍だったことで、その影響が。

それでもゴヘノヘの頭が効果範囲の中心だったためそちらの方が威力が大きく、やはり動きが止まり、同時に私の体が宙に浮かびました。

伍長でした。伍長が私を抱え上げて救出を。

「ありがとうございます…!」

さすがに多少のダメージがありすぐに体が上手く動かなかった私は伍長に抱えられて間合いを取れたことでお礼を口にします。

「礼はいい! さっさと回復して力を貸せ!!」

伍長は私を見ることさえなく言い放ち、時間が足りず仕掛けに使えないままに置かれていた杭を拾いゴヘノヘに向かって走ったのでした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

処理中です...