獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
101 / 404

畏怖

しおりを挟む
私の側からによる第一射は躱されたものの、反対側にも同様の仕掛けはあります。

「撃って!!」

私は全力でその場を離脱しながら、担当の山猫人ねこじんに指示を出しました。

山猫人ねこじんに操作を担当してもらうゆえに安全マージンを確保するためにこちら側よりもやや距離を取っていますが、それでも十分に必殺の威力があるはずの第二射に託します。

なのに、ゴヘノヘは何かを察したのか、尻尾を振り上げて森の中へと叩きつけたのです。

「な…?」

その一撃で、反対側の仕掛けはことごとく破損。まったく出鱈目な方向に射出された杭が一本あっただけで、他は撃ち出されることさえありませんでした。

「くそ……っ!」

思わず漏れる悪態。

間近で見、その能力の片鱗に触れたことで私はさらに容易ならざる相手であることを実感していました。

だからこそ、落とし穴の効果を期待するのです。あの巨体そのものがゴヘノヘにとっての弱点となるはずですから。

なのに……

『そう…! そのまま……!!』

梟人きょうじん達と山猫人ねこじん達による攪乱で気を逸らしたゴヘノヘが、落とし穴へと誘導されます。

そして、遂に落とし穴に足を乗せ―――――

「!?」

ませんでした。

私達が乗っても大丈夫ですが、ゴヘノヘが乗れば確実に落ちる落とし穴に足が触れた瞬間、引っ込めたのです。

野性の本能がまたも危険を察知したのでしょうか……?

梟人きょうじん達や山猫人ねこじん達が必死に気を逸らし、かつ挑発し、落とし穴へと誘導しようとしているのに、ゴヘノヘは、<道>を避けて木々を強引に押し退けて森に入り、落とし穴を迂回してみせたのでした。

何という……

あの巨体に加え、知能も想定していたよりもずっと高い……

イルカやクジラ以上かもしれません。

「そんな……」

邪魔な木々に苛立ちながらもなんとか潜り抜けて道に戻り、しっかりと地面を踏みしめるともう大丈夫なことを察したのか、ゴヘノヘは私を見ました。

いえ、見たような気がしただけかもしれません。彼への畏怖がそのような錯覚をもたらしただけなのかも。

でも、私にはそう見えてしまったのです。

ゴヘノヘが、私を嘲笑ったかのように……

ああでも、そんなことはどうでもいい。兎人とじん達が懸命に掘り、トームが運んだ資材によって簡易の<橋>を作る要領で構築。私達や獣人達が乗っても崩れることはなく、けれどゴヘノヘの重量には耐え切れず崩壊し、底に仕掛けた<杭>で大きな傷を負わせるはずだった落とし穴を哂われたような気がして……

でも、その時。

「ビアンカ!」

私の耳を打つ声。

一瞬とはいえ呆然自失に陥りかけていた私を引き戻してくれたそれに振り向いた私を包む、たまらない安心感。

少佐でした。少佐がA班と共に駆け付けてくれたのです。

「直ちにプランCに移行! まだ手はある!!」

少佐の指示に、

「はい!!」

私は軍人としての意識を取り戻すことができたのでした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...