獣人のよろずやさん

京衛武百十

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最終段階

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梟人きょうじんは、小柄な体と翼を持った獣人です。と言うか、彼らの場合は<鳥人間>と言った方がいいのでしょうか。

自力で羽ばたいて飛び上がることはできませんが、翼を広げて高いところから飛び立つことで数十メートル、上手く風を捉えれば百メートル以上を滑空することができます。

ただし、本当の鳥のように自在に空を飛べるわけではないので、その能力を戦闘に活かすということは、少なくとも今回はしません。あくまで斥候として哨戒作業や監視、陽動を担当してもらうということで。

彼らの中から希望者が出てくれば、滑空能力を活かした戦術というものも本格的に考えてもいいかもとは思うものの、それは今後の課題ですね。

それを前提とした訓練を行うにはさすがに時間がなさすぎです。

何より、今回の作戦が上手くいかなければ、検討することもおこがましいでしょう。

なお、木を蹴って高く跳び上がるために足は非常に強靭なので、本当の梟と違って地面を走るのも決して苦手ではありません。はっきり言って私よりずっと早いです。

そんな私の足に合わせて走ってくれるくらいには状況を把握する能力も持っていて、潜在的な能力は高いでしょうね。

ゴヘノヘの襲来は分かっていたことのはずなのでもっと事前に承知していれば時間を掛けて準備も……

……いえ、それを言っても仕方ないでしょうか。今はまだ、獣人達と信頼関係を築いている段階でしたから。それが十分に確立されていない段階で私達がでしゃばっても、きっと今のようには上手くいかなかったでしょうし。

それもあって伍長も何も言わなかったのかもしれません。

……彼の場合はただ忘れてただけかもしれませんが。

母親のように慕っていたベルカを喪っても、それは猪人ししじん達が望んで戦った結果です。それでゴヘノヘを強く憎むのも違うと考えているのかもしれませんね。



そういう諸々も、今は慮外とするべきだと、私は気持ちを切り替えます。

まずは今回の作戦を成功させること。すべてはそれからです。

「ビアンカ・ラッセ、ただいま到着しました!」

陽動役の梟人きょうじん山猫人ねこじん達にブリーフィングを行っていた少佐に敬礼。少佐も返礼してくれました。

「では、ビアンカも加えて改めて最終の確認を行う。A班は私と共に、B班はビアンカと共に、これより所定の位置に着く。C班とD班はそれぞれの班のバックアップ。

最後に、改めて念を押しておくが、万が一仲間がゴヘノヘに捕えられるようなことがあったとしても、無理に救出しようとしてはいけない。犠牲が増えるだけだからな。しかし、各員がしっかりと想定された通りの働きをすれば、そもそもそのようなことは起こらない。そのために備えてきた! だから勝手な行動はしないように!

いいな!?」

「ハイ……!」

皆、真剣な表情で応え、作戦は最終段階です。

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