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誉れ
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猪人の集落を襲撃したゴヘノヘに、彼らはまったく怯む様子もありませんでした。
すでに戦士としては引退していたベルカも石槍を構え、現役と比べても勝るとも劣らない気迫で先陣を切り、ゴヘノヘを迎え撃ちます。
それはまさに<総力戦>の様相を呈していたとも……
最初にゴヘノヘと会敵して四日後、遂にゴヘノヘは負傷に耐えかねたのか、獣人達の集落がある場所から逃走、遂に<災禍>は収まったのでした。
しかし、これによる犠牲者数、確認が取れただけでも、
猪人の死亡、五人。
兎人の死亡、三人。行方不明、二人。
山羊人の死亡、一人。行方不明、二人。
山猫人の行方不明、一人。
行方不明者は、遺体すら残っておらず死亡が確認できなかったというだけで、死亡は間違いないでしょう……
以上のような大変な犠牲を出しつつも、この時のそれは比較的少ない方だったといいます。
それは、猪人達の闘志漲る戦いぶりのおかげだったのかもしれません。
ただ、猪人達の犠牲者五人の内の一人は、ベルカでした……
彼らは戦って死ぬことを恐れません。むしろ誉れとしています。
けれど、だからといって家族や仲間の死を悲しむことがないわけでもない。
「くそ……っ!」
伍長も同じです。
あの時、自分が出遅れなければ、もしかしたらベルカは助かったかもしれない。なにしろベルカは、ゴヘノヘが逃走する直前の、最後の犠牲者でしたから……
だからこそ、彼はそう感じてしまったのでしょう。
私達は軍人です。戦場において生と死を別つものは、結局、<運>と呼ばれるものでしかないことは知っています。なにしろ万全の準備をして挑むのですから。
今の軍というのはそういうものです。
けれど、どれほど万全の備えをしたとしても、犠牲がゼロになることはない。
だから自身を責めても仕方がないことを私達軍人は、訓練の中で教わります。これは、個々人の精神を守るためのと同時に、恨みを抑制するために必要とされている考え方だそうです。
恨みは、強い憎悪は、冷静な判断を損なうということで。
でも、それでも、完全に割り切ってしまえないのも人間というもの……
ましてやまるで母親のように自分を受け止めてくれた存在の死を、機械のごとくただの情報として処理することもできません。
ゆえに私達は、ゴヘノヘを迎え撃つための準備を始めたのです。
時間的な余裕は決して十分ではありませんが、先の戦いでバンゴと友に先陣を切った猪人達の証言を得ながら痕跡を辿り、当時の戦いの詳しい状況を分析、次の戦いへと活かさなくては。
すでに戦士としては引退していたベルカも石槍を構え、現役と比べても勝るとも劣らない気迫で先陣を切り、ゴヘノヘを迎え撃ちます。
それはまさに<総力戦>の様相を呈していたとも……
最初にゴヘノヘと会敵して四日後、遂にゴヘノヘは負傷に耐えかねたのか、獣人達の集落がある場所から逃走、遂に<災禍>は収まったのでした。
しかし、これによる犠牲者数、確認が取れただけでも、
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けれど、だからといって家族や仲間の死を悲しむことがないわけでもない。
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あの時、自分が出遅れなければ、もしかしたらベルカは助かったかもしれない。なにしろベルカは、ゴヘノヘが逃走する直前の、最後の犠牲者でしたから……
だからこそ、彼はそう感じてしまったのでしょう。
私達は軍人です。戦場において生と死を別つものは、結局、<運>と呼ばれるものでしかないことは知っています。なにしろ万全の準備をして挑むのですから。
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けれど、どれほど万全の備えをしたとしても、犠牲がゼロになることはない。
だから自身を責めても仕方がないことを私達軍人は、訓練の中で教わります。これは、個々人の精神を守るためのと同時に、恨みを抑制するために必要とされている考え方だそうです。
恨みは、強い憎悪は、冷静な判断を損なうということで。
でも、それでも、完全に割り切ってしまえないのも人間というもの……
ましてやまるで母親のように自分を受け止めてくれた存在の死を、機械のごとくただの情報として処理することもできません。
ゆえに私達は、ゴヘノヘを迎え撃つための準備を始めたのです。
時間的な余裕は決して十分ではありませんが、先の戦いでバンゴと友に先陣を切った猪人達の証言を得ながら痕跡を辿り、当時の戦いの詳しい状況を分析、次の戦いへと活かさなくては。
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