獣人のよろずやさん

京衛武百十

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ゴヘノヘ

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データヒューマンとしてシミュレーター内らしき世界にいた時に、ツーマンセルで哨戒を行っていたパートナーのジェドと共にこの世界に現れた相堂しょうどう伍長は、持ち前の野人のようなバイタリティで猪人ししじんともコミュニケーションをとり、それによってここでの生活を確立することができました。

と言っても、彼自身が獣人のようになる形でですが。

しかし残念ながらジェドはそれに適応できなかったらしく、肺炎を患い、抗生物質もなかったここでは満足な治療も行えず、当時の<まじない師>だったバンゴの父親の<まじない>も効果を発揮せず、体調を崩して十日後には亡くなってしまったそうです。

反面、伍長は猪人ししじん達に深く馴染み、すっかり猪人ししじんの一人のように振る舞っていたとのこと。

特にバンゴの母親には気に入られ、息子のように扱ってもらえたとも。

「ベルカ! 獲物だ!!」

当時はまだまじない師見習いであり村の若い男達と一緒に狩りにも出ていたバンゴと共に狩りに行き、一番大きなブタ(に似た動物)を捕まえて持ち帰り、自慢したこともあったとか。

なお、<ベルカ>はバンゴの母親の名前です。

「ユキ! ユウシャ!!」

自分の息子を上回る結果を出してみせる伍長に、ベルカはとても上機嫌になったそうです。

ですが、ある年の冬……



「ワザワイ! クル!! ゴヘヌヘ、クル!!」

バンゴの父親がまじないの結果を見て、声を上げました。

「ゴヘノヘ!!」

「ゴヘノヘ!!」

それを聞いた猪人ししじん達が緊張した様子で叫びます。

「ゴヘノヘ? なんだ…?」

彼らの様子に伍長も身構えつつ、尋ねました。

「ゴヘノヘ、オオキナ、ワザワイ!! オオキナ、ケモノ!!」

ベルカがそう答え、猪人ししじん達は落ち着きなく何かの準備を。

<大きな獣>

それを聞いた伍長も、猪人ししじん達の尋常でない様子とも併せて自分の体がミチリと軋むのを感じたそうです。

そして同時に、

「災いを運ぶ大きな獣。ってか……? 楽しみじゃねえか……!」



しかし、それを『楽しみ』と称したのは認識が甘かったと、伍長でさえ今は悔やんでいると言います。

三日後に現れた<ゴヘノヘ>の姿を見て。

「……でけえ……!」

それは、体長十五メートルはありそうな、まさに<恐竜>としか言いようのない巨大な獣でした。Tレックスを彷彿とさせる。

基本的には、精々、熊くらいの大きさの恐竜(によく似た動物)が生息するだけのこの惑星ですが、時には<ゴヘノヘ>のような超大型の恐竜(によく似た動物)も現れ、獣人達を襲うのだそうです。

それが、十数年ぶりに現れたのだと。

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