獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
55 / 404

互いを尊重するためにこそ

しおりを挟む
獣人達の赤ん坊のお風呂は、基本的には温い水か、ほとんど水同然のぬるま湯を使います。沸かしたお湯に入浴する習慣がそもそもないからです。

また、寒さには強いものの暑さにはやや弱い傾向があるらしく、特に赤ん坊の場合はお湯の温度が高いと湯あたりしてしまうようですね。

そういうことも含めて、基本的には獣人達の都合に私達が合わせます。

元より私達はここでは<余所者>ですからね。

もちろん、私達自身も<人間>として最低限のラインは守りますが。

私達と獣人達とは<別の種族>であるという事実は、互いを尊重するためにこそ認めないといけません。

ちなみに、ノーラの赤ん坊は男の子でした。

「うーお! うーお!」

生まれて三日目でもう<喃語なんご>も発するのですね。

生まれてきた時は呼吸がなくて蘇生措置を要したというのに、蚊の鳴くような声で泣いてたというのに、今ではこの元気のよさ。実に頼もしいです。

人間の子供は成長に時間が掛かることもあって育児の負担が大きくなる傾向がありますが、これは同時に、人間の作り上げた<社会>がそれを可能にしているという面もあるといわれています。それだけの余裕があるということです。

しかしここにはまだそれだけの余裕はありません。子供もなるべく早く成長し自分の身は自分で守れるようにならなければいけないという現実もあるということ。

とは言え、私達の庇護下に来たのであれば、やはり守りたいと思ってしまうのも事実。

だから、少なくとも私達の庇護を離れ仲間の下に帰っていくまではと思います。

ただ、私個人としては、それに加えて、

『私も早く少佐の赤ちゃんが欲しいな……』

と思ってしまうのもありますが。



少佐は、僅か数年間ではありますが、医師としての実務経験もあり、それゆえ、人体についても少なくない知見がありました。その少佐の見立てでは、私達の体は、

『透明である』

ということ以外に、人体との差異はまったく見受けられないとのこと。

おそらくあの<透明で不定形の存在>自身が持つ何らかの能力によって透明に見えているだけで、肉体を構成している物質は完全に人間のそれであるという結論しか出せないそうです。

高度な検査機器を用いれば何らかの有意な違いも検出できるのかもしれませんが、少なくとも少佐の医師としての見識の範囲では私達の肉体は人間のそれなのです。

現に、生理現象さえ以前とまったく変わらずにあります。

そう、私には月経さえあるんです。

と言っても、経血さえ透明なので、最初は何とも言えない違和感がありました。

無色透明でありながら、感触も臭いもそのままという。

本当に奇妙な体です。

だけど、おそらく<妊娠>も可能と推測されています。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜

珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。 2匹の怪獣さんの母です。11歳の娘と5歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。 毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)

つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ
大衆娯楽
鈴は爆誕して16年の腐れオタク少女。 隣に住む幼馴染みの慧ちゃんと一緒に、人生初のコミケに挑むことに。 だが力が足りない彼女たちは、文明の利器『ぱしょこん』を持っていなかったのだ。 そんな折、父親の仕事先の同僚がドイツに帰ることになり、行き場がなくなった自作パソコンを譲り受けたとかいう超絶ラッキーが舞い降りる! 我は力を手に入れた!とバリにウキウキで電源を入れた鈴と慧の前に、明治時代の大学生のような格好をしたホログラム?が現れた。 機械に疎い2人はAIだと思ったが、『奴』は違う。 「あのぉ……小生、つくも神なる者でして……」 同人誌の発祥は明治時代。 ことあるごとにつくも神から発生する厄難に巻き込まれながら、何とかオタ活に励んで冬コミを目指す若者たちのほのぼのギャグコメディだよ。

異世界立志伝

小狐丸
ファンタジー
 ごく普通の独身アラフォーサラリーマンが、目覚めると知らない場所へ来ていた。しかも身体が縮んで子供に戻っている。  さらにその場は、陸の孤島。そこで出逢った親切なアンデッドに鍛えられ、人の居る場所への脱出を目指す。

現代にモンスターが湧きましたが、予めレベル上げしていたので無双しますね。

えぬおー
ファンタジー
なんの取り柄もないおっさんが偶然拾ったネックレスのおかげで無双しちゃう 平 信之は、会社内で「MOBゆき」と陰口を言われるくらい取り柄もない窓際社員。人生はなんて面白くないのだろうと嘆いて帰路に着いている中、信之は異常な輝きを放つネックレスを拾う。そのネックレスは、経験値の間に行くことが出来る特殊なネックレスだった。 経験値の間に行けるようになった信之はどんどんレベルを上げ、無双し、知名度を上げていく。 もう、MOBゆきとは呼ばせないっ!!

処理中です...