獣人のよろずやさん

京衛武百十

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すべてが癒されていく

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ああ、でも、相堂しょうどう伍長だけは、無謀な行いの結果、それらの成分を分解できる酵素を獲得できたのか、一部、食べられるようになったものがあるようですが。

とは言え、無理に食べなくても、食べられるものだけで生命活動を維持できることは確認済みですから、別に羨ましくもありません。

ノーラの朝食の用意を終え、それを彼女のベッド脇のミニテーブルに置きます。こうしておけば彼女は自分で食べてくれますから。

獣人達にはまだ<団欒>という概念がないようです。自分が食べたい時に食べ、眠りたい時に寝る。その一方で、<酒宴>は頻繁に行われることもある。

私達人間には自分勝手にも見える振る舞いではあるものの、獣人達にとってそれが自然であるならば私達が口出しすることではないでしょう。

お客が来る気配もないので、またここまでの経緯について触れましょうか。

え、と、どこまで話しましたか……

ああ、あの<謎の存在>に呑み込まれたところまででしたね。

<あれ>に呑み込まれた瞬間は、全身が焼かれるような痛みを感じ、生命の危機の実感にパニックを起こしたのですが、感覚的にはそれは一瞬だったような気がします。その次の瞬間には痛みは薄れ、それどころかパニックさえ収まり、あたたかくて安らいだ気分でさえあったような……

その感覚に最も近いものといえば、治療用ナノマシン溶液に満たされた医療カプセルの中で眠っている時のそれでしょうか……?

自身の細胞のすべてが癒されていく安心感。

普通に考えれば、

『謎の生物に捕食された』

と解釈すべきはずなのに、むしろ<安らぎ>に似たような感覚さえ覚えていたのです。

もっとも、それ自体、私の脳細胞が断末魔の苦しみを誤魔化すために行った欺瞞工作の可能性はありますが。

しかし、そうして自分が最後を迎えた覚えはあるのに、次に気が付いた時には、他の仲間達と一緒に『全裸で』見知らぬ場所に倒れていたんです。

「え…え……? えぇ~……っ?」

正直なところ、私はそうとしか口にできませんでした。

なにしろそこは、コーネリアス号が不時着し、私達がサバイバル生活を送っていたサバンナを思わせる草原とはまるで違う、絵画を思わせる美しい<湖畔>だったのですから。

澄んだ水を湛えた湖のバックには、ご丁寧に雪を頂いたアルプスと見紛うばかりの山々まで連なっていたのです。

『何かの<ドッキリ>?』

かとさえ思いましたよ。

だけどそれは、ドッキリなんかではありませんでした。

私達、<外宇宙惑星探査チーム、コーネリアス>のメンバー、六十人のうちの三十一人が、見知らぬ世界に飛ばされていということです。

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