獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
9 / 404

人間とは認められない

しおりを挟む
出産に鎮静剤の用意。

これだけを見ると完全に離島や僻地の<診療所>みたいな役目をしてますね。

でも、あくまでここは<店>で、<よろずや>なんです。

最初はそういう形で始めたのですが、医療という概念のないこの地では、自分達の価値を獣人達にアピールするには医療の方が効果的だったようです。

当時、見慣れない姿をした私達を獣人達は警戒して、なかなか近付こうともしませんでした。

けれどある時、先ほど訪れたメイミィと彼女の妹のレミニィがこの近くを通りがかった時に、レミニィが発作を起こして暴れたのを、猪人ししじんのブオゴが力尽くで取り押さえようとして、でも先に少佐が拘束。その間にメイミィが<ホコの実>を探してきてくれてレミニィに与え、解決することができたのでした。

これをきっかけに、店に<ホコの実>の在庫を置くようにし、同時に、商店として商品を置くだけじゃなく、簡単な医療も提供することになったというのが経緯です。

実は少佐は、戦場で救急対応ができるようにということで医師免許を持ち、軍に入る以前には実際に医師としての勤務の経験もありました。

加えて、戦場で負傷した味方の手術を行ったこともあります。

もっとも、私達がいた世界には、非常に高度な機能を有したロボットが多数いて、それが応急処置も行ってくれるので、わざわざ仕官が医師の真似事をする事態に至ることはそんなにありませんでしたが。

ただそれが今になって役立つことになるとは、実に皮肉なものです。

ちなみに私も、軍に入る前、一時期、看護師をしていたこともあるので、多少の知識も経験もあります。ただ、看護師として許されている以上の医療行為はできませんでしたから、そちらは見様見真似ですが。

人間社会では私が過剰に医療行為を行うのは触法行為になってしまうものの、この世界には<法律>そのものがありませんし、そして私達自身が、厳密には<人間>ではないのです。

これは、<義体化してあるサイボーグ>であるとか、人間そっくりの生体ロボットであるとか、そういう意味ではありません。あくまでも肉体の構造そのものは人間のそれと寸分違わぬ存在なんです。

単に、

『法律上は人間とは認められない』

というだけで……



こうして一騒動あった後、ようやく私達は一息吐きました。

三人それぞれ手分けして夕食の用意をして、夕食を採りながら今日の報告を行い、

「僕がノーラと赤ん坊を見てるから、ビアンカは先にお風呂に入ってくれていいよ」

と少佐に言われ、

「はい、じゃあ、先に失礼します」

と、私は、小屋の奥に設置した、これも丸太をくりぬいて作った<浴槽>に、土器とカマドで沸かしたお湯を張ったお風呂に入ります。

そして石鹸代わりの泥で体を洗い、湯で流すと、そこには、比喩表現としての『透き通るような』というそれではなく、本当に『透き通った』手足が現れたのでした。

そう。これが今の私、いえ、私だけでなく、少佐や伍長も含めた、<私達の体>なのです。

私が、

『法律上は人間とは認められない』

と言ったのは、これが理由なのでした……

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...