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結びの章

勢いも大事

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『さくらの言うことも分かる……私にとってさくらの妊娠は喜ばしいことだが、他の先生方にとっては本当にどうでもいいことだというのもあるだろうな……

となれば、『子供ができるのはめでたいことなんだから、四の五の言わずに祝福して協力しろ!』と強要するのも違うんだろう。それは分かるんだ……

でも、国というのは人間がいてこそ成り立つ。外国人移民を受け入れることに批判的な意見も多いじゃないか。だとしたら、生産も国防も日本人だけで賄おうと思えば、日本人が生まれてくれなきゃ無理なんじゃないの?

もし、『それで日本が滅ぶんなら滅べばいい』みたいなことを考えてるのがいるとしたら、それこそ傾国の輩というものじゃないのか? 『ダラダラ生き延びるくらいなら誇りを守って潔く滅ぶべし』とか思ってるのかもしれないが、『自分が子供に手間をかけさせられるのが嫌だから子供は要らない』とか言ってる奴が、『自分は子供なんか育てられないから』とか言ってる奴がそんなことを言ってるのだとしたら、何が<誇り>だよ。自分が楽したいだけのただの甘ったれだよね?

これからも日本という国を存続させていこうっていう気概もないのが<誇り>とか、寝言は寝てから言ってほしいよ。

しかも、『最近の親はまともに子供も育てられない』とか言うんなら、自分が育児について勉強して、自分が立派な子供を育ててみろって言うんだよ。他人を馬鹿にするくらいなんだから、自分がその程度のことはできるんだよね?

……くそう…だんだん腹立ってきた。文句言うばっかりで自分じゃ何もしない連中に子育ての何が分かるって言うんだ…!

なら、私も……!』

アオはそんなことを考えてしまった。

人間が決断するにはいろいろな理由があるものだろうけれど、アオにとってはそれがきっかけになった。

さくらが会社に帰ったことで、ミハエルに、

「ミハエル! 私も子供が欲しい!」

と口にした。

「ほえ?」

ミハエルと一緒にトランプで遊んでいた洸が呆気にとられる。でもそのすぐ後で、

「アオも赤ちゃん生むの?」

嬉しそうに訊き返す。するとアオは、胸を張り、

「応ともよ! 私の子供なら洸にとっても兄弟みたいなものだ。洸の兄弟をもっともっと増やすぞ!」

そう言い切った。

そんなアオに、ミハエルはほんの少し苦笑いを浮かべながら、

「アオがそう望むのなら僕に異論はないけど、唐突だね」

と応えた。

けれどアオは止まらない。

「こういうのは勢いも大事なんだっていうのを悟ったよ。ウダウダウジウジ言い訳並べてるだけの人間には何も成せないんだ!」

とは言いつつも、

「だけど、今は恵莉花《えりか》と秋生《あきお》のことが優先だから、二年後くらいにね」

とも付け加えたのだった。

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