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結びの章

特化したスキル

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『過去の自分がしてきたこと、信じてきたこと、望んできたこと、求めてきたものの一切を否定し、非難し、かつ自らが幸せになることを期待せず、誰かの幸せをただ願う』

これがどれほど困難なことか、少し考えれば分かると思う。それができるならそもそも他人を傷付けたりはしないだろう。できないから彼は修羅の道を歩んできたのだ。

けれど、彼はそれをしなければならない。

もっとも、そうしたところで罪は消えない。被害者の怨念も憎悪もなくなることはないだろう。それは彼自身もそうだ。吸血鬼に対する憤りも恨みも消えることはない。今も消えたわけじゃない。ただそれを上回る<タガ>が存在するだけだ。

だから、さくらとその子供達とそれに連なる者達がいなくなってしまえば、彼の<タガ>は失われ、再び修羅の道へと堕ちる可能性が高い。

憎しみとというものはそれだけ簡単なものではないのだから。

それでも、今だけは……

「ふえ…ふあ……」

すやすやと寝ていたはずの恵莉花えりかが微かにそう声を上げ始めた瞬間、エンディミオンは時間を見越して数分前から体温程度のお湯で温めていた、搾乳した母乳を手に取り、恵莉花に与えた。タイミングがちょうどよかったので、さくらは起こさなかった。

彼女にはなるべく睡眠をとってもらいたいからだ。

母性信仰を盲信する者達はえてして、

『母親ならそれくらい頑張れるはずだ』

というようなことを言うが、それが幻想でしかないことをエンディミオンは知っている。産後の精神が不安定になっているなかで更に睡眠不足が重なったことで赤ん坊を便所に投げ捨てた母親も見たことがあった。さくらにはそうなってほしくないから自分がするということだった。

そして恵莉花の授乳が終わりげっぷをさせると、まるで見越していたかのように今度は秋生あきおがぐずりだす。

しかしエンディミオンは慌てることなく恵莉花を抱いたまま器用に片手と足を使っておむつを替え、手を洗い、やはり温めはじめていた母乳を秋生に与えた。

この時には、まだ寝付いていなかった恵莉花を膝に乗せてあやしながら、秋生を抱いて授乳させた。双子を同時に面倒を見るということに特化したスキルをすでに獲得していたと言えるかもしれない。

彼はそれを文句ひとつ言わず淡々とこなした。だからさくらは気付くことさえなく眠れ、体力の回復を計れた。

さくらの食事もエンディミオンが用意した。と言っても、手早く栄養補給できるということで、ミハエルが作りアオが届けてあきらが受け取り、冷蔵庫で保管していたハンバーグを温めたものと御飯だけだったけれど。

とにかく、皆で協力して恵莉花と秋生を育てたのだった。

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