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命の章

命名

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「よく頑張ったな、さくら」

病室に移動し、双子の赤ん坊に挟まれてベッドに横になるさくらに、アオは目を細くして声を掛けた。

「ありがとうございます」

初産で双子で十三時間もの時間がかかったこともありその顔には疲労の色が濃く浮かんでいたものの、同時に晴れ晴れとした達成感のようなものも見て取れた。

そんなさくらとは対照的にエンディミオンは病室の隅で椅子に座り、不貞腐れたように腕を組んで寝ている。寝たふりかもしれないけれど、とにかく寝ているように見えた。

「せっかくの家族水入らずだから、あまり長いするのも野暮だしな、そろそろお暇するよ。でも、この子達の名前が決まってるならそれだけ教えておらえるか?」

問い掛けるアオに、さくらは微笑みながら、寝ている赤ん坊の足をそっと掴んで、そこに巻かれている名札を示しながら、

恵莉花えりか秋生あきおです。」

と応えた。

するとアオも満面の笑顔になり、

「そうか、いい名だ♡」

嬉しそうに言った。

女の子と男の子の双子ということで十分に予測された名だったけれど、反対する理由は何もなかった。

そしてアオは隣に座っていたあきらに向き直り、

「これで洸もお兄ちゃんだな。恵莉花と秋生を頼むぞ」

そう声を掛ける。

「うん♡」

洸も嬉しそうに笑顔で頷いた。

そうしてアオは病室を後にすると、近くの公園で十四時間以上待っていたミハエルがすっと現れて合流した。

「無事生まれたみたいだね」

アオの表情からすべてを察したミハエルが言うと、

「うん。元気な女の子と男の子の双子だった。名前は恵莉花と秋生」

スマホの画面を示しながら応える。そこには名札が巻かれた小さな足の写真が写し出されていた。

それから、さくらと赤ん坊が並んだ写真も示すと、ミハエルも満面の笑顔になった。

「可愛いね。とても力強い命を感じる。きっと自分の力で幸せを作り上げる逞しい子に育つよ」

その言葉に、アオも、

「そうだね。眩しいくらい輝いてた。<命の輝き>っていうのはああいうのを言うんだと思った。

私は<生まれ変わり>なんて信じてないけど、もし、この二人がエリカと秋生しゅうせいの生まれ変わりだと言われてもそれを否定しようっていう気にはなれないよ。そこまで野暮はしたくない」

さくらと赤ん坊の写真を見ながらデレデレに緩み切った表情になるアオに、ミハエルも嬉しそうだった。

その上で、

「この二人はたぶん、ダンピールとしての形質は発現してないと思う」

と言った。

「え? そうなの?」

驚いたアオに、

「うん。アオの体に移った二人の匂いからは、ダンピールとしてのそれが感じられない。だから普通の人間として生きられるだろうね」

そう答えたのだった。

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