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命の章

鉄壁の守り

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さくらのお腹が大きくなるにしたがって、エンディミオンはまた彼女と一緒に行動するようになった。今度は犯罪などから守るというだけでなく、大きなお腹を抱えて行動することによる事故などから彼女を守るという意味もあった。

そうしてエンディミオンに任せておけば大丈夫なので、アオも安心だった。

なお、エンディミオンが管理していた温室の方は窓を開放して風通しを良くし、サフィニアなどの比較的手間のかからないものを中心に植えている状態だ。さくらの付き添いに集中したいからである。

夏の日差しは吸血鬼やダンピールには厳しいものの、それだけで致命傷になるわけではないので、しっかりと日除けを行えば昼に出歩くのも問題はなかった。ただしこれだけ暑くなると今度はさくらの方のダメージが大きいので、検診は朝の比較的涼しい時間帯に行き、散歩を兼ねた買い物などは、十分に日が傾いてから出るようにした。

「さくら、だいじょうぶ?」

大きなお腹を抱えて大儀そうに歩くさくらにそう声を掛けたのは、高校生くらいの、すらりとしていてしかもどこか中性的な印象のある、それでいてひ弱そうには見えない、不思議な少年だった。

その少年に対し、さくらは、

「ありがとう、あきら

と応えた。

そう。すっかり成長した洸がそこにいたのだ。

とは言っても、中身は一歳の子供である。だから表情にはまだまだあどけなさが強く残っていた。

それでも当然、人間などでは勝負にならない存在なので、こんなに頼りになるボディーガードもいない。反対側に立つエンディミオンと合わせ、およそ鉄壁の守りと言えるだろう。

なお、洸についてだが、これから先は人間よりもむしろ少し遅いくらいの変化になるので、他人に関係を聞かれれば、

「事情があって親戚の子を預かっているんです」

と答えるようになっていた。さらには成長したことにより、さくらがいなくても人間の姿を維持できるようになっていた。

よって、精神の発達はともかく知能については五歳六歳程度のそれに至っているのもあり、すでに洸自身が口を合わせてくれている。この辺りは、ウェアウルフという種の特性として身に付いているのか、心得たものだった。

ただしエンディミオンについては、今も基本的には気配を消して行動している。

ミハエルのように、

『体が成長しない病気なんです』

としてもよかったが、

「いちいち説明するのも面倒臭い」

エンディミオンがそう言うのでそのままである。

ミハエルも気配を消して行動するのでそれと同じでもある。

確かにたまに根掘り葉掘り聞き出そうとする人間もいるし、最初からいないものとして行動する方が楽なのだろう。

こうしていよいよ、さくらの出産の日は近付いていたのだった。

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