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命の章

上手いことできてる

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『五歳くらいになれば吸血鬼は人間を圧倒できる』

実際にそうだった。吸血鬼の能力の大半は、自我の目覚めと共に急速に覚醒する。それまでは、人間の赤ん坊と、生命力の点でこそ圧倒するもののそれ以外の部分はさほどほど違わない。

これはおそらく、自分の力を意識的にコントロールできるようになるまでは危険なのでリミッターが掛かっている状態なのだろうと考えられていた。

自身では感情の制御ができない乳幼児のうちから吸血鬼としてのスーパーパワーが使えてしまうと周りが大変だからなのかもしれない。

しかし言葉がちゃんと理解できるようになれば、自覚的に力を使うこともできるようになってくる。これはダンピールでも同じだ。

それに、ダンピールの場合は特に、片方の親が<人間>である。赤ん坊の内から力が使えると、それこそ親が殺されてしまうということさえ起こりかねない。

まさにそういうことなのだろう。

「上手いことできてるものだね」

アオはミハエルの話を聞き、<命>というものの仕組みに感心する。

とは言え、万が一というものはいつでも存在する。エリカが、ミハエルも知らない病を患っていたくらいなのだから、さくらの子がいわゆる<普通>ではないことも想定しなければいけない。

いや、ダンピールが生まれる可能性が高い時点で<普通>ではないのだろうが。

それでも、成長の点ではいわゆる<普通の人間>と大きく違わないのなら、対外的な問題は大きく減ることになる。あとはその通りであることを祈るばかりということか。

「でも、どんな形で生まれてこようと、私は受け入れるぞ。さくらの子なんだからな」

アオがそう言うと、

「僕ももちろんアオと同じだよ。どんな事情を抱えて生まれてきても、僕も協力する。僕達の下に来てくれる<命>なんだ。僕たちがそれを望んでいるんだから、選り好みするのはおかしいよね」

ミハエルもそう言った。

二人がそんな風に言ってくれることに、さくらはたまらない心強さを感じていた。だから普通なら不安だらけにもなりかねない、ダンピールであるエンディミオンとの子を迎えるにあたっても、ほとんど心配は感じなかった。

『そうだよね。親の勝手でこの世に送り出すんだから、生まれてくる子がどんな子でも受け止めなくちゃおかしいと思う。その覚悟もなしで生む方がおかしいんじゃないかな』

さくらの言うことも一理あるかもしれない。

親の都合で子供を選別するというのであれば、子供の都合で親も餞別できなければおかしいだろう。

子供は<家畜>ではない。

親の<道具>ではない。

アオもさくらも、そんな現実にも向き合えない親にはなりたくなかったのだった。

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