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命の章

いい出逢いに恵まれて

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「先生、私のために無茶はしないでください……!」

アオが自分の上司に対して直接抗議をしたことを知って、さくらは悲しそうにそう言った。これでアオが契約を切られようものなら、それこそ自分もどう責任を取っていいか分からなかったからだ。

「すまん……だがこれは、私が勝手にやったことだ。お前に責任がある訳じゃない。お前が責任を感じる必要はない」

申し訳なさそうに頭を掻きながらも、アオはきっぱりとそう言った。

しかし、

「責任を感じるなとか言われても無理ですよ。人間はそんな風に割り切れません。

ただ、自分のやったことについては自分が責任を負うという姿勢は、あきらやこれから生まれてくる子供に対しても意味があるとは思います」

と、アオを真っ直ぐに見詰めてさくらも言った。

感情に任せて他人を罵っておいてそれが原因で自分に不利益が返ってきたら被害者面をする。アオもさくらも、そういう人間ではいたくなかった。そういう姿を洸や生まれてくる子供に対して見せたくなかった。

子供のうちはまだそれでも許されても、大人になればそんなものは通じない。それを伝えたかった。

実際の姿勢で。

アオの両親や兄には、見られないものだった。

『本当はあの人達にもそのことに気付いてもらいたいんだけどな……いくら見限ったと言っても、仮にも血の繋がった肉親なんだしさ……

はあ……上手いこといかないものだね……』

心の片隅では、そんなことも思う。

だがそれは本来は、アオの両親がしなければいけないことのはずだ。人生の先達として。それを放棄し、自分の子供に案じられているのだから、親として恥じなければいけないだろう。何のための人生経験か。

とは言え、両親がそれに気付けなかったのは、そのまた両親から教わってこなかったからというのもある。アオの場合はたまたまいい出逢いに恵まれて、そのおかげで気付けただけだ。それまでの自分の行いが結局は自分にとって利益になったり不利益になったりするだけだということを。

アオの場合は、小説だった。小学校の図書館で手にした小説が、彼女に気付かせてくれたのだ。

その小説の中の主人公は、自分の苦難を他人や世の中の所為にしなかった。その上で自分に何ができるのかというのを常に考えていた。

実は、その小説のタイトルも作者の名前も、アオ自身は覚えていない。ただただ内容だけが、いや、主人公の生き様だけがアオの中に残っている。

アオが小説家を目指すきっかけになったのもそれだっただろう。

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