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はぐくみの章

メリット、デメリット

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ミハエルはさらに続ける。

「よく考えてほしい。<普通の人>はなぜ人を殺さないの? それはまず、『殺さなきゃいけない理由がない』からだよね。

じゃあ次に、<殺してやりたいと思う相手>がいる人が実際にその人を殺さないのはなぜ? 『こいつ、殺してやろうか!?』って思った時にそれを実行に移さないのはなぜ? 

怖いから?

殺しちゃいけないと思うから?

じゃあ、どうして怖いの?

どうして殺しちゃいけないと思うの?

怖いと思う理由は?

殺してやりたいのに殺しちゃいけないと思う理由は?

怖いのは、人を殺すことで何かが自分の身に降りかかってくるから怖いんじゃないの? <怖いという感情>ってそういうものだよね?

殺してやりたいのに殺しちゃいけないと考えるのも、人を殺すことで起こる<何か>を連想するからじゃないの?

自分にとって大切なものを失うことになるかもしれない。

自分の人生が壊れてしまうかもしれない。

それを考えてしまうから、『殺してやりたいけど殺しちゃいけない』って思うんじゃないの?

ということは、<人を殺すことで失うものがない状態>って、ものすごく危険だよね。だって、『殺してやりたい』って思ってしまったら、もうそこから先の歯止めがないんだから。

この世の中に、<今まで一度も誰のことも殺してやりたいと思ったことがない人>ってどれだけいるのかな?

そう考えると、<人を殺すことで失うものがない状態>になるだけで、簡単に人を殺せてしまうんじゃないの?

それこそ、自分の命さえ惜しくなかったら。

自分の命さえ惜しくない人を抑えるために刑罰を厳しくするのって、効果あると思う?

ましてや、人を殺した直後に自分の命も断つような人を相手に。

短期的には多少の影響が出たとしても、すぐに慣れてしまうだろうね。僕はそういう事例をいくつも見てきた。

人間はね、<厳しさ>だけじゃすぐにそれに慣れて麻痺してしまうんだ。

大事なのは、<人を殺さないことで受けられるメリット>を明確にすることだと思う」

「メリット……?」

「うん、『人を殺したら死刑になる』というのはデメリットだけど、そのデメリットは元々自身の命に執着のない人には通じない。抑止力にならない。<破れかぶれ><ヤケクソ><生き残ることになる人への当てつけ>といった理由で殺人に至る人にはね。これが、厳罰化による抑止効果の限界。

逆に、<人を殺さないことで受けられるメリット>については、さくらがよく分かってるんじゃないかな」

「……エンディミオンのことですね…?」

「うん。だってエンディミオンは、人を殺さないことでさくらと一緒にいられるんだから。彼にとっては最大の<人を殺さないことで受けられるメリット>じゃないかな。

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