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家憑き童子の章

感性の違い

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不発弾のことを警察に告げたのはエンディミオンであることを、さくら達はしばらく知らなかった。

エンディミオンとしても、まさかここまでの騒ぎになるとは思っていなかったというのもある。なにしろ彼は、子供が不発弾を見付けてそれを玩具にしていて爆死することも珍しくないような地域を転々としていたというのもあって、日本ほど慎重に丁寧に対応するという感覚がなかったのだ。

せいぜい、規制線が張られ、周囲の住人に形ばかりの警告がされ、軍の爆発物処理班が来てさっさと持ち出すくらいで、二~三時間で終わる程度のものという感覚しかなかったのである。

これは、暮らしてきた環境からくる感性の違いなので、必ずしもエンディミオンが迂闊だということにはならないだろう。

しかし思わぬ騒ぎになってしまい、すぐには自分が警察に告げたと言い出せなかった。

だが、不発弾処理に関連する費用の一部をアオが負担しなければならないことを知ったさくらがショックを受けたのを見て、

「実は……」

と打ち明けることになった。

正直なところ、アオやミハエルに迷惑が掛かること自体はさほど気にも留めていなかったものの、さくらがショックを受けたことには少なからず後ろめたさも感じてしまったということだ。

この時、エンディミオンは、てっきりさくらが怒るかと思ったが、確かにそれを打ち明けられた時には青ざめた表情にもなったが、しかし声を荒げたりはしなかった。

ただ、

「私の為、だよね……?」

と訊き返しただけである。

実際、エンディミオンは、さくらがもしあの家に住むとなれば不発弾が埋まったままでは危険だからと考えたのだ。

さくらもそれが分かっていたから、怒る気にはなれなかった。

そしてエンディミオンも、さくらが自分を責めないから、開き直れなかった。

これが頭ごなしに怒鳴ってくるような相手なら、逆ギレしてやれるのに……

結局、それが彼の<本質>だった。上辺だけでなく本当に優しくされるとそこに付け込むことができないという。

彼が生きてきた環境では、

『優しい人間は付け込まれる』

というのが当たり前だった。だから他人に優しくなどできなかった。そんなことをしていたらケツの毛までむしられて体まで切り刻まされ売り飛ばされても仕方ないような世界だった。そういうものだと思っていた。

なのにここではそれは<当たり前>じゃなかった。そういう事例ももちろんあるとしても、あくまで裏の世界での話だ。そんなものとは一生縁なく生きる者も普通にいる。

ここまでさくらと一緒に暮らしてきてそれが実感できてしまった。

ダンピールである彼も、やはり環境により影響は受けるということなのだろう。

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