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けもけもの章

いい塩梅

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さくらに抱かれると人の姿にもなるあきらだったものの、普段はやはり狼の姿のままだった。

本人がまだそれをうまく制御できないからだろう。ミハエルもそれについては、

「歩けるようになったりしゃべれるようになるのと同じで、これは成長して制御できるようになるのを待つしかないからね」

とのことだった。

なので、これからも当分、アオのところで預かることになる。

それに、さくらのことは<母親>だが、アオやミハエルのこともちゃんと<仲間>だと認識はしているようだ。

『くっはぁああ~! カワイイ~♡』

ミハエルに教わってミルクを作り、自分でもやってみると、あまりの可愛さに悶絶しそうになる。

ただこれも、二週間ほどで終わってしまった。人間の赤ん坊よりははるかに乳離れが早いからだ。

「乳歯が生え始めたら乳離れの時期だよ」

アオとさくらの前でそう言ってミハエルが洸の口を開かせると、ピンク色の歯茎から白いものが覗いてるのが見えた。

「これならまだ急いで乳離れさせる必要もないけど、そろそろ離乳食も始めようか。今は犬用の離乳食も市販されてるから楽だね。しかもウェアウルフの場合は、ミルクと同じで人間用の離乳食でもいけるから。

ただし、だからって犬や狼には人間用は与えちゃダメだよ。成分が違うからね」

「うん、分かった」

「はい」

頷くアオとさくらに、ミハエルが余談として付け足す。

「ウェアウルフの場合、赤ん坊から幼少にかけての食事によっても、人と狼、どっちの姿を普段とるかっていうのは影響を受けるみたいだね。犬や狼としてのミルクや食事が多いと狼の姿をとるのが楽で、人としてのミルクや食事が多いと人の姿をとるのが楽になるというのもあるらしい。

でもこれも、元々の体質とかもあるから必ずしもその通りになるわけじゃない。

洸の場合は、エンディミオンも言ってた通りに、狼の姿を主にとる体質だと思う。だけど、成長して知恵がついて自我が芽生え始めると、自分で選ぶようにもなるんだ。

ただ、自我が芽生えることで、自分がなりたい姿を無理にとろうとする子も出てくる。体質的に楽な方じゃなくてね。

そういう子には、ちゃんと無理をしないように諭してあげた方がいいかもしれない。無理を続けると精神のバランスを失うこともあるから。

人間は、特に日本人は無理して頑張ることを美徳と考える傾向があるみたいだけど、それも限度を過ぎれば毒になる。精神を病んで他人に対して攻撃的になったりするからね。

だから同時に日本には素晴らしい言葉があるじゃないか。

『いい塩梅あんばい

って言葉。何でもちょうどいい頃合いっていうものがあるってことだよね」

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