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けもけもの章

ウェアウルフ

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「なにこれなにこれ、カワイイ~っ!!」

さくらが持って現れたペットキャリーに入った子犬らしき動物を目にした途端、アオは、いつもの<作家先生キャラ>も忘れて歓声を上げてしまっていた。

すると、アオと一緒にさくらを出迎えたミハエルが、

「ウェアウルフだね。どうしたの?」

と、単刀直入に尋ねてくる。

「え!? ウェアウルフ? 人狼ってこと!?」

ミハエルの言葉にハッとなったアオが振り向いた。

「エンディミオンもそう言ってました。人の姿をあまりとれない、しかも犬の血が混じってるウェアウルフだろうって」

さくらがそう説明すると、ミハエルがそれに続き、

「匂いから察するにそうみたいだね。この子はたぶん、これまで人の姿をとったことがないと思う。人の姿でしばらく過ごすと人の匂いが強くなるんだけど、この子にはそれがないし、確かに犬の匂いも混じってる」

と説明する。

「はえ~、そういうものなんだ…」

アオは感心したように呟きながら、改めてペットキャリーの中を覗き込んだ。

その中で、微かに震えながら不安そうにこちらを見る目と合う。その姿は、やはり子犬にしか見えなかった。

「でもこの子、どうしたの?」

問い掛けるアオに、さくらは、

「貰い手がなくて捨てられるところだったんです。それでつい……」

と、少し困ったような表情で言った。

「あ~、確かにこの姿見ちゃうとダメだよな~」

アオもしみじみ納得したという表情になる。その上で、

「だけどこの子、どうするの?」

とも問い掛ける。素直な質問だった。

「そうなんです……うちのマンション、ペット禁止だし……

取り敢えず、編集部で誰か探せればと思ったんですけど、そもそもウェアウルフを飼える人っているのかなって話ですよね……」

「そっか、そりゃそうだよね……」

途方に暮れる二人に、ミハエルが言う。

「ウェアウルフは賢いし強いから、人間の手を借りなくても生きていけるよ」

「そ、そうなんだ…?」

そうホッとしかけたアオとさくらに、しかしミハエルは付け加えた。

「だけど、人と暮らして人のありようを学ばなかったウェアウルフは、人と上手く関われなくなる。ましてや虐げられたりしたら、人を敵と見做すようになったりもするんだ」

「そんな……」

突き付けられた現実に、二人は声を失う。

だが、すぐにアオが、

「だったらもう、うちで預かるしかないよ。幸いここは、室内で飼うこと限定だけど、小型犬や猫ならOKのマンションだし」

と、ミハエルに向かって言った。

そんな彼女に、ミハエルは微笑みかける。

「アオならそう言うと思ったよ」

けれどさくらは、

「いや、でも、また先生に迷惑が……!」

そう言って慌てたのだった。

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