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ほのぼのの章

走る夢

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『おやすみ、アオ……』

自分の腕の中ですうすうと穏やかな寝息を立て始めたアオの体温を感じながら、ミハエルは心の中でそう呟いた。

アオの存在は、今やミハエルにとっても欠かせないものになっている。

彼は思う。

『アオに出逢えただけでも、日本に来た意味があったよ……

ありがとう…アオ……』

肉体的にも精神的にも人間よりははるかにタフネスで、何かに依存しなければ生きられない訳でもない吸血鬼にとっても<心の支え>はあるに越したことはなかった。

そうしてミハエルも、淡いまどろみの中に落ちていったのだった。



二人が眠って二時間ほどすると、アオはフッと目を覚ました。

ミハエルはまだ寝ているようだ。そこで彼を起こさないようにそっとベッドから抜け出し、洗面へと行って歯を磨き、顔を洗い、それから自分の仕事部屋でパソコンに向かった。

寝ている時に見た夢をそのまま書き留めていく。

今回の夢は、以下のようなものだった。



夢の中でアオは、保育園の職員らしき仕事をしていた。

そしてその保育園は園児らを連れてテーマパークらしきところに来ていたのだが、いざ帰るという段になって、あろうことか園児を数名、置き去りにしてバスが走り去ってしまう。

しかもアオも取り残されていた。

「ちょ、ちょっと待って!」

アオは声を上げながらバスを追いかけるが、無論、追いつけるはずもない。

それでもアオはバスを追い、走った。

テーマパークに来るときに通ったルートを。

園児を置き去りにしてバスが走り去るということからして有り得ないが、しかし、ここからが夢の夢たるところであろう。さらに有り得ない展開となっていく。

バスで帰ったのだから来るときもバスで来たはずなのに、なぜか徒歩で来たことになっていて、さらには、寺の境内らしき場所、個人の邸宅の敷地内、工場の敷地内、小学校の敷地内などを通り抜けてきたことになっていた。

それらをアオは走り抜けていく。

個人の邸宅の敷地内を走り抜けた時などは家人と鉢合わせ、

「すいません、すいません」

と頭を下げつつ通り抜けた。

実はこの頃になってくると、

『あ…これは夢だな』

とうっすらと気付き始めたのだが、なぜか走ることをやめられず、夢であることを自覚しながら夢に囚われてる状態になっていた。

それでいて夢であることを活かし、現実なら不可能な高さから飛び降りてみせたり、かと思うと何とか体を浮かせて建物の屋根に飛び移ってショートカットを試みたりという、アクロバティックな展開へと変化していった。

その間、アオが感じていたのは、

『急がなきゃ。急がなきゃ』

という焦燥感だったのだが、河の堤防に上がったところで完全に目が覚めたのだった。

で、

『……相変わらず我ながら意味不明な夢を見るなあ……』

と、ミハエルの寝顔を見ながら苦笑いを浮かべたのである。

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