上 下
139 / 291
ほのぼのの章

自立と反発

しおりを挟む
今ではアオとミハエルは、ベッドで一緒に寝ている。

と言っても、何かセクシーな展開がある訳ではない。どちらかと言えば、

『母親が幼い子供と一緒に寝ている』

感じに近いだろうか。

もっとも、この二人の場合、どちらが<母親>でどちらが<幼い子供>かと言えば、だいたいがお察しの通りだろうが。

「ん~ふふふ♡ ミハエル~♡」

同居を始めて約五ヶ月。初めて一緒にお風呂に入った頃の狼狽えぶりはどこへやら。もうすっかりただの<甘えっ子>になっていた。

アオが。

「はいはい……♡」

甘える我が子を愛しむ母親そのものの表情で、ミハエルは自分に寄り添ってくるアオを抱き締めた。

アオは今、子供に戻っている状態だった。幼い頃に両親に甘えられなかった分を取り戻すように。

いや、実際に子供の頃からやり直していると言った方がいいか。

アオはかねてより、自分にはたくさんのものが欠けているという自覚があった。

他人との共感性や、自立心といったものだろうか。

今では立派に独立して両親からも自立しているように見えるアオだけれども、それは厳密には<自立>ではなくただの<反発>だっただろう。今の自分を維持するモチベーションそのものが、自分を欠陥品のように見下していた両親や兄への反発だったのである。

反発による自立と、満たされて巣立っていくこととは違うのかもしれない。

なぜなら、<親に対する反発心>を拠り所にしているということは、それは結局、親の存在に依存していることに外ならないからである。もし親の存在がなくなれば、何を拠り所にして自立心を保つのだろうか。

他人に対する反発心か?

そうやって一生、誰かを自立心の支えにして、結果的に依存して、生きていくのだろうか。

それは果たして、本当に『自立している』と言えるのだろうか?

もちろん、誰かを心の支えにすることは必要かもしれない。けれど、<心の拠り所>と<自立心の拠り所>は、似て非なるものとは言えないだろうか?

少なくともアオはそう感じている。

『……私は結局、あの人達への反発心や反抗心を頼りにして生きてきただけなんだ。こうやってミハエルと出逢ってそれがよく分かった……

だって、ミハエルとこうしてるといい意味で頑張ろうって思えるのに、あの人達のことを思い起こしたらすっごく嫌な気分になるんだよね。同じ『頑張ろう』でも、全然違うんだ。<やる気の質>が。

ミハエルのことを思うと言持ちが充実してる感じがするのに、あの人達のことを思うとただ単にささくれ立ってるって感じかな……』

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

OL 万千湖さんのささやかなる日常

菱沼あゆ
キャラ文芸
万千湖たちのその後のお話です。

眠らせ森の恋

菱沼あゆ
キャラ文芸
 新米秘書の秋名つぐみは、あまり顔と名前を知られていないという、しょうもない理由により、社長、半田奏汰のニセの婚約者に仕立て上げられてしまう。  なんだかんだで奏汰と同居することになったつぐみは、襲われないよう、毎晩なんとかして、奏汰をさっさと眠らせようとするのだが――。  おうちBarと眠りと、恋の物語。

後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~

絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。 ※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。

お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

ma-no
キャラ文芸
 お兄ちゃんの前世が猫のせいで、私の生まれた家はハチャメチャ。鳴くわ走り回るわ引っ掻くわ……  このままでは立派な人間になれないと妹の私が奮闘するんだけど、私は私で前世の知識があるから問題を起こしてしまうんだよね~。  この物語は、私が体験した日々を綴る物語だ。 ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。  1日おきに1話更新中です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

夜鴉

都貴
キャラ文芸
妖怪の出る町六堂市。 行方不明に怪死が頻発するこの町には市民を守る公組織、夜鴉が存在する。 夜鴉に在籍する高校生、水瀬光季を取り巻く数々の怪事件。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ミコマイ犯科帳・レポート①「ねずみ小僧に関する考察」

よこゆき
キャラ文芸
シャーマン(降霊)の能力を持つ歴女・御子柴舞。彼女の使命は、歴史上の理想の男性を現世に降霊させ結ばれることにある。シリーズ①で、舞は鼠小僧について調べるうちに、同時代を生きた遠山金四郎と水野忠邦が関係していると推論する。「ねずみ小僧」とは、忠邦と金四郎が裏金を運ぶために生み出した架空の盗人ではないかと。舞は田沼意次の末裔・真吾と知り合い、彼の身体を触媒にして意次の孫・意義の霊魂と接触する。舞の推理はあたっていて、彼がねずみ小僧のようだ。意義は従者の渡辺良左衛門の手を借り、農民たちを救うべく忠邦の蔵から一万両の裏金を盗み出す。だが忠邦の命を受けた金四郎が、大捕り物を組織し意義を追い詰める。万事休した意義は、その場で切腹したかと思われたが…。

処理中です...