上 下
120 / 291
平穏の章

的外れ

しおりを挟む
「読者や視聴者は、本当に好き勝手なことを言う。特に業腹なのが、<技術論>を云々する輩だ。

好きか嫌いかは分かるのだ。それはあくまで当人にしか持ちえない判断基準だから、当人が語るしかないというのは。

しかし、技術的なことを云々する輩は何様かと思う。

偉そうに言うのなら、お前にそれ以上のものが作れると言うのか?

と、こう言うと今度は、

『そんなことしてる暇ないしwwwww』

とか言うのだ。さらに中には、

『作った奴しか批評できないって言うのなら、殺人犯について語れるのは殺人犯だけなのかよ?』

などと屁理屈を言うのまでいる。

あのな。<殺人の技術>について語ろうとするなら確かに実際にやってみないと語れないかもしれないが、殺人犯を批判する場合、殺人の技術について云々するか? 普通はしないだろうが。『殺人という行為は許されない』とだけ言うのであれば、別に殺人犯でなくても構わんだろうが。

と言うか、むしろ殺人を犯してない人間でないと『殺人という行為は許されない』とは言いにくいのではないのか?

このテンプレを作った奴は『自分は上手いこと言った』と思ってるかもしれないが、的外れもいいところだな。

……いや、もしかしたら作った当人は既にそのことに気付いてて恥じているかもしれないな。言葉だけが当人の手を離れて勝手にテンプレとして利用されているだけで。

『自身の語る野球論を実証してみせるために監督になる』などというのはさすがに難しいとしても、今時、マンガや小説やシナリオを発表するだけなら、いつでも誰でも気軽に無料でできるようになってるじゃないか。

たったそれだけのこともやって見せずに、技術を云々するでないわ!」

「言いたいことは分かりますけど、さすがにそれは極論じゃないですか? 描写や演出に対する感想はあっても当然だと思いますけど……」

「まあな。言うのは別にいいのだ。<言論の自由>がある以上は。だが、素人の技術論ほど小賢しいものはない。

大学時代の教授が言っていたよ。

『評論家などというものは、その道のプロになれなかった、なれるだけの技量がなかった人間がなるものだ』

ってな。

職業に貴賤はない。<言論の自由>は認められてる。しかし、バックボーンのない発言に力はないのだ。

教授はこうも言っていた。

『真っ当な評論家は、自身の言葉が単なる<感想>でしかないことを承知している。自身の感性を語っているに過ぎないことを承知している。だが、だからこそ<受け手の意見>たりえるんだよ』

と。

確かにそうだ。例えば映画を見た時に感じたものを、自らの主観で、かつ他人にも理解できる理路整然とした言葉で綴るからこその<評論>なんだろう。

そこに小賢しい技術論など入る余地はない。

自身が触れたものをどう感じたかが大事なんだろうからな」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある老人の残した日記帳

大神達磨
キャラ文芸
 亡くなった老人の日記帳の内容です。  日記ノベルと言う形を取って書かせて頂いているので、通常の小説と言うよりは日記を読んでいる感覚で読まれると楽しめると思います。 (この作品はフィクションであります、現実の人物団体に関係は有りません。)

新日本警察エリミナーレ

四季
キャラ文芸
日本のようで日本でない世界・新日本。 そこには、裏社会の悪を裁く組織が存在したーーその名は『新日本警察エリミナーレ』。 ……とかっこよく言ってみるものの、案外のんびり活動している、そんな組織のお話です。 ※2017.10.25~2018.4.6 に書いたものです。

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

魔王少女は反省中

宗園やや
キャラ文芸
何気ない登校時に現れた謎の少女。その少女の正体はなんと本物の魔王だった。目立ちたくない性分の男子高校生である勇佐一命の前世の記憶が蘇るまで、魔王はメイドとして勇佐一命の家で世話になる事にした。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

薔薇の耽血(バラのたんけつ)

碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。 不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。 その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。 クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。 その病を、完治させる手段とは? (どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの) 狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

キャラ文芸
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

処理中です...